5つのセクションで構成される本展。注目作をいくつかご紹介したいと思います。
「鳥たちの楽園」で展示されている《四季花鳥図屏風》は、伝狩野元信筆。遠目では山水画のようにも見えますが、約70羽の鳥が描かれています。同じ種類の鳥がリズムを生んでおり、例えば右隻には、岸辺の白鷺が鳴く先に、空中でふりむく白鷺。左隻でも3羽の鴨が、飛んでくる群れに向かって鳴いています。
「鳴く虫と吠える獣」には、展覧会メインビジュアルの鈴木其一筆《夏秋渓流図屏風》。右隻は夏、左隻は秋が表現され、右隻の檜には1羽の蝉がとまっています。バキッとした金地に、緑の山々と青い水流。強烈な色彩表現は現代の絵画のようで、琳派の枠に収まらない傑作です。
「鳥たちの楽園」「鳴く虫と吠える獣」「妙なる調べ」で目をひくのは、久隅守景筆《舞楽図屏風》。舞人と楽人を描いた屏風から、雅な音曲が聴こえてきそうです。守景の作品にしては珍しく鮮やかな色彩も注目されます。
《傘張虚無僧図》(重要美術品)は、「奇想の絵師」岩佐又兵衛の作品。若い二人の虚無僧が奏でる尺八が、傘張りの男にも聞こえているでしょうか。
「妙なる調べ」展示室2に進むと、「名所の賑わい」には《近江伊勢名所図屏風》。右隻に近江、左隻に伊勢の名所が描かれた屏風で、昨年の修復後、初お披露目となります。生き生きとした人物表現で、賑やかな声が聞こえてきそう。お持ちの方は、ミュージアムスコープをお忘れなく。
最後の「音を聴く人々」には、2点の重要文化財、3点の重要美術品が出品。中でも池大雅筆・自賛の《洞庭赤壁図巻》(重要文化財)は、大雅らしい上品な色彩感覚で描かれた逸品です。中国の名勝を描いていますがもちろん大雅は訪れた事はなく、版木の略図を元に想像で描きました。近年根津美術館に寄託された作品です。
「名所の賑わい」「音を聴く人々」展示室5では女性コレクターの福島静子氏が蒐集した調度品を紹介する「しつらえを愉しむ」、展示室6ではひと足早く秋の模様を感じる「清秋を楽しむ」が開催中です。あわせてお楽しみください。
本展の後は、いよいよ財団創立75周年の記念特別展「根津青山の至宝」が開幕(9月19日~11月3日)。
根津美術館の全展示室を使い、初代根津嘉一郎(号青山・1860〜1940)の蒐集の軌跡を辿る企画で、国宝・重文が多数出展される注目展です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年7月29日 ]