まずは展示室1の「鏡の魔力」から。村上英二氏から寄贈された中国古鏡コレクションから、時代順に優品を紹介する企画です。
古来、鏡は単なる姿見ではなく、霊力を具えた存在と考えられていました。鏡の背(鏡背)に表わされた文様も、人々の願いが込められています。
方形と円を組み合わせた文様は「天円地方観」という中国の宇宙観から。古代中国では天は円く、地は四角いと考えられていました。
時代によって、鏡背にも流行が現れます。後漢時代には人の形で表現されたさまざまな神仙、十二支は隋唐時代には字から動物の姿に、鳳凰が尾を大きく頭上に振り上げて踊る「舞凰形」が流行したのは唐時代です。
展示室1「鏡の魔力」
続いて「若き日の雪舟」。若冲の例を出すまでもなく、画家の評価は時代によって上下しますが、雪舟は一貫して高く評価されている「画聖」です。実は、38歳までは拙宗(読みは同じ「せっしゅう」)と名乗っていました。
展覧会の目玉は《芦葉達磨図》。1928年の売立目録に掲載され、模本と写真では知られていましたが、長い間所在が分からなくなっていました。2008年にスミス・カレッジ美術館に寄贈され、昨年度に京都で修理されたため、母国に戻る前に日本でお披露目となりました。模本と並んで展示されています。
《潑墨山水図》は、中国画とみなされていた作品。1991年に根津美術館に寄贈された際の調査で、拙宗の作品と判明しました。拙宗と雪舟が同一人物かどうかは議論が続いていますが、岡山県立美術館に当作と構成が良く似た雪舟の作品がある事から、同一人物説を裏付ける重要な作例です。
拙宗時代の作品は14~15点程度しか確認されておらず、本展では主要な8点を展示。規模は大きくありませんが、画期的な展覧会といえます。
展示室2「若き日の雪舟」
いつものようにテーマ展示も開催中。展示室5では、伝李安忠筆の国宝《鶉図》を中心に、中国と日本の花鳥画の小品を特集する「花と鳥の絵画」。展示室6は、鬱陶しい梅雨の季節も、茶道具に取り入れてしまう「雨中の茶の湯」です。
展示室5「花と鳥の絵画」、展示室6「雨中の茶の湯」
次の企画展は、夏休みに向けた「はじめての古美術鑑賞」。日本古美術の絵画の技法やその用語を、とくに墨と金の使用法を中心にやさしく解説する企画です。こちらもこの項でご紹介する予定です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年5月25日 ]
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