妖艶な指先にご注目
明治後期、東京や京都では、鏑木清方と上村松園を筆頭とする二つの画壇が主流で、大阪はその東西二大都市と比べるとややマイナーな地域でした。
そんな大阪で、「画壇の悪魔派」と揶揄されながらも、画壇の改革を起こそうと奮闘したのが、今回の主人公、北野恒富。
作品を見てみると、どれも現代性を感じるものばかり。
では早速ご紹介しましょう。
こちらは、北野恒富《道行》(1913年頃)。
この作品は文展に出品したものの、道徳的に良くないという理由で落選した作品です。
描かれているのは、近松門左衛門の「心中天の網島」に登場する遊女小春と紙屋治兵衛が死出の旅(心中へと向かう旅)へと向かう場面です。
威嚇し合うカラスが描かれ、道ならぬ恋に走る二人を責め立てているかのようです。
小春の顔は空一点を見つめ、生気が感じられないほど憔悴した様子です。
二人がつなぐ手の指先にご注目ください。
指先はほんのり赤く、それが妙な生々しさを感じさせます。まるで彼女らの心情を象徴するかのようです。
左から、北野恒富《宝恵籠》(1931年)、北野恒富《涼み》(昭和初期)。
北野恒富の《宝恵籠》は私のお気に入りの作品の一つで、鮮やかな赤色と芸妓さんの黒い結い髪の対比がとても美しいです。
近くで見てみると、結い髪はただ黒で塗られているのではなく、繊細にニュアンスを感じさせるように描かれているのがわかります。
着物にもご注目ください。
帯の絞りの粒は一粒一粒丁寧に色が塗り重ねられていて、少し厚塗りになっています。
恒富の作品は、塗り重ねるところと、薄く色付けしてニュアンスを出しているところが混在しているのが面白いです。
左から、北野恒富《ポスター原画:高島屋》(1929年)、森村泰昌《北野恒富・考/壱(恒富風桃山調アールデコ柄)/森村泰昌》(2011年)。
森村泰昌といえば、古今東西の名画に入り込んだり、著名なアーティストに扮したセルフポートレート作品で有名ですが、こちらでは、北野恒富の《ポスター:高島屋》に描かれる女性に扮しています。
この作品で是非注目いただきたいのが、森村の指先です。
実際の女性像とは異なりますが、彼は恒富の指先へのこだわりを見抜き、あえて手入れの行き届いた長い爪をあらわにしています。
こちらは下段右から北野恒富《ポスター:貿易製産品共進会》(1911年)、北野恒富《ポスター:朝のクラブ歯磨》(1913年)、北野恒富《ポスター:サクラビール》(1913年)。
右の作品を見て、ミュシャを連想された方も多いのではないでしょうか。
恒富はミュシャから影響を受けた画家の一人で、この作品は恒富制作のポスターの中で最も古い作品です。
それから2年後には、中央の作品のように、恒富好みのやや憂いを帯びた女性のポスターが制作されるようになりますが、ポスター制作のスタート地点に、こうした西洋舶来品の影響が見られる、というのは興味深いですね。
最後に展覧会風景をご紹介します。
こちらは北野恒富といえばコレ!という作品が一堂に並ぶコーナーです。
いろんな風景の中に、はんなりとした女性が描かれています。
こちらは恒富が設立した、画塾「白耀社」の門下生たちの作品コーナーです。
祭りをテーマにした作品や、夕涼みが描かれた作品など、どれも夏らしい作品です。彼の作品からいつも感じられる憂いがそこにはあります。
ただ綺麗なだけじゃない、恒富の美人画を是非会場でお楽しみください。
エリアレポーターのご紹介
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胤森由梨
美術が大好きなアートライターです。美術鑑賞に関わる仕事を広げていきたいと思っています。現在、instagram「tanemo0417」「artgram1001」でもアート情報を発信中です!
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