今日、木工の作家による家具は、生活空間にもっとも親密でありかつ新鮮な、現代の造形分野として急速に発展してきました。木という素材の特質や自然観、美しさへの従順な思考を個性的な表現へ結びつけた家具の制作が明らかとなっています。近年、従来の性急な経済性や合理性の追求とは異なって、一般の居住や生活空間に対して自然で精神的な豊かさが再認識されまたライフスタイルの個性化が提唱されるなか、長い成長の現れである木という自然素材への確固たる信念と美に対する理想を掲げて自己の制作に徹する木工家らの制作姿勢も注目されています。
わが国の家具は、伝統の木工芸作家黒田辰秋や民藝家具の池田三四郎、日系二世で国際的な家具作家ジョージ・ナカシマ、デンマークのデザイナーのハンス・ウェグナーらを先達として、また建築家らデザイナーによる生産家具が大きな指標となってきました。そうしたなか、家具を専門とした木工家らは1970-80年代頃から次々と自らの工房をかまえ、独自の自由な創作を表明して個性的な活動を繰り広げてきました。単なる注文に随従した制作ではなく、伝統木工を基調とする制作や造形上の創造性やデザイン性を高めた制作において、明快な家具としてのメッセージを示しつつ固有のアイデンティティとオリジナリティを獲得しています。
本展では、家具作家の先駆として活躍してきた早川謙之輔をはじめ、現代に家具という造形芸術の分野を主導的に開拓してきた作家9名をとりあげます。テーブルや椅子、棚・キャビネット、机、箱もの等、その造形のうえで今日的な指標となっている制作品約70点で構成いたします。家具を総体的にとりあげる企画展としては初めてとなりますが、その優れた造形の本質と将来の可能性を展望いたします。