アメリカ現代木版画の世界

　日本の浮世絵やヨーロッパにおける木版画、とりわけドイツ表現主義からの影響、形態の単純化と平面化がもたらすプリミティブな力強さ、有機的素材との対話から生み出される独自の表現効果など、作家たちがこの技法を選んだ理由は様々ですが、多種多彩な作品群に、尽きることの無い木版表現の可能性を感じ取っていただけることでしょう。 　またこれらの作品が、アメリカ現代版画を代表する版画工房タイラーグラフィックス、とりわけマスター・プリンター、ケネス・タイラーと作家たちとの厚い信頼関係に基づくコラボレーションにより成り立っていることも忘れるわけにはいきません。同工房が誇る最高水準の技術やタイラーの豊かな経験と実績、そして何より彼の版画に対する情熱と果敢なチャレンジ精神が、作家たちに理想的な制作環境を提供することとなり、同工房を舞台に、木版をはじめとする版画表現の幅は飛躍的に拡大したのです。フランケンサーラーの繊細優美な色彩による巨大な屏風絵を思わせる作品や、木版を他技法を組み合わせることで複雑極まりない表現の奥行きを獲得したフランク・ステラの作品など、同工房から出版された作品の数々は、従来の木版イメージを見事に刷新しています。 　本展が、作家たちによる木版への多彩なアプローチを通して、その魅力を感じていただく機会となれば幸いです。