帯鉤は革帯(ベルト)を留めるための金具、すなわちベルトバックルです。中国の戦国時代から漢時代にかけて(紀元前5世紀~紀元3世紀)、王や貴族、兵士たちが使用していました。帯鉤は裏面に設けられているボタン状の突起と先端の鉤状になった部分とを、ベルトの両端に開けた孔にそれぞれ差し込んで装着します。ちなみに現代のベルトが専らズボンを穿くのに使用されるのに対し、この時代のベルトは上着の上に締める帯として用いられていました。
帯鉤は実用品であるとともに、腹部を飾る装飾具としても扱われていたと思われ、金や銀で装飾したもの、龍、鳳凰などの姿を意匠に取り入れたものなど、華麗な作品が作られています。それらの装飾技法や文様からは、古代の人々の豪華さに対する嗜好、デザイン感覚、精緻な金属工芸技術などがうかがえます。
本展覧会は、平成13年に江川淑夫氏から寄贈された帯鉤約200点と青銅器約60点からなる「江川コレクション」の作品を公開するものです。本コレクションには、戦国時代から漢時代に製作された様々な形態の帯鉤が揃っており、帯鉤の特質を理解しその造形を鑑賞するにふさわしい内容となっています。同時に公開する青銅器は、中国の商(殷)時代から清時代にかけての武器、車馬具、飾り金具などで、これらは動物文様に視点をおいて収集された作品です。馬、鹿、熊、虎などの動物の姿がどのように工芸品の中に生かされ、デザインされてきたかを帯鉤と合わせてこの機会にご覧下さい。