新収蔵作品名:サルバドール・ダリ「抽出しのある女たち」 1937年
≪作品の紹介≫
ダリは23歳のころからシグモント・フロイト(1856-1939)の精神分析学に傾倒し、人間の理性や欲望に関する文献を熱心に読みました。その後、1929年にはアンドレ・ブルトン率いるシュルレアリスム(超現実主義)運動に参加します。このシュルレアリスム運動とは文学(詩)・美術上の新しい表現様式という枠組を超えてあらゆる分野に影響を及ぼした思潮の表現で、夢や無意識や非合理といった‘心の世界’を解放することにより、人間自体の自由と変革を目指して積極的に行動化されたものでした。ダリは絵画において、苦悩する人間に抽出しを付け、それを開くことにより近代社会の効率化によって押潰されている人間の理性や欲を引出しの中から開放することを説明しました。また、この抽出しの発想はダリが生涯に渡り敬った巨匠の一人、ジオヴァニ・バティスタ・ブラッチェリの作品から閃いたと思われます。ブラッチェリは16世紀の総合芸術家で、当時では珍しい幻想画を描いています。おそらくダリはこのブラッチェリの抽出しをみて、理性の開放を理論的に説明できると確信したと推測できます。