創作活動を始めて以来一貫として、女性の生き方に真摯に向き合い、懸命に書いてきた宮尾登美子の姿は、運命に耐えながらも強く、時に烈しく生きる作品のヒロインたちに重なります。
宮尾登美子は大正15(1926)年、土佐(高知県)の花街で芸妓娼妓紹介業を営む家に生まれました。家業や複雑な家庭環境に少女時代の宮尾登美子は悩み続けたと言います。しかしその生い立ちに材を取り、自伝的作品『櫂』『春燈』『朱夏』『仁淀川』を書き上げました。劣等感にさいなまれた自分と向き合って自らの人生を描くことで、作家として大きな力を得たのでした。作家自身の分身ともいえる主人公・綾子は、今や、多くの女性たちに愛されるヒロインとなりました。
そして、宮尾作品には、日本画家・上村松園をモデルにした『序の舞』や一絃琴に生涯をかけた女性たちを描いた『一絃の琴』など、芸道に身を捧げて名を残したヒロインたちがいます。彼女たちはその道を極めながら、恋愛をし、苦悩しつつ、女性としての生を懸命に生き抜きます。その姿に、現代を生きる女性たちも、自らの姿を重ね合わせることのできるリアリティがあるのです。
また、運命や時代に翻弄されながらも力強く生きるヒロインたちも宮尾作品には欠かせません。『鬼龍院花子の生涯』や『陽暉楼』など映画化もされて人気の高い作品に登場する女性たちも、貧窮からの身売りや特別な家庭環境を運命として生き、その独特の<美しさ>を輝かせるのです。
本展では、作品の中で美しく咲き誇るヒロインたちの生き様から宮尾文学に迫り、その魅力を余すところなく紹介します。
この秋、愛すべき宮尾文学のヒロインたちに、ぜひ会いにいらしてください。