大学時代には化学を専攻し、その後フリーの写真家として、宇宙・生命をテーマに化学反応を撮影する“SF写真”に取り組んでいた内藤は、25歳のときに出羽湯殿山の注連寺で鉄門海上人の即身仏に出会い、強い衝撃を受けます。これを機に修験道への興味を深め、1966年に羽黒山伏の秋峰修行に参加。以降、東北地方の民俗・信仰を精力的に撮影し、『婆バクハツ!』(『婆 東北の民間信仰』1979年)、『出羽三山と修験(日本の聖域9)』(1982年、※第2回土門拳賞受賞)、『遠野物語』(1983年)、『東京 都市の闇を幻視する』(1985年、日本写真協会年度賞)等を刊行。闇に向かってストロボを焚く独特の作風で注目を集め、国内外で発表されました。同時に、民俗学者として『ミイラ信仰の研究』1974年)、『聞き書き遠野物語』(1978年)、『修験道の精神宇宙』(1991年)、『遠野物語の原風景』(1994)、『日本「異界」発見』(1998年)、『日本のミイラ信仰』(1999年)、さらに近著『民俗の発見』<I 東北の聖と賎><II 鬼と修験のフォークロア><III 江戸・王権のコスモロジー><IV 江戸・都市の中の異界>全4巻(2007-09年)等を上梓。東北と江戸・東京、自然と都市、王権と民衆、科学と宗教といった異質のテーマを重層的に交叉させ、多角的な視点と斬新な発想に基づく民俗学の論考を次々と発表しています。
本展では、写真と民俗学という異なる分野で活動する内藤正敏のふたつの思考とその交差をテーマに、『出羽三山』『遠野物語』等、いずれも友好都市・岩手県遠野市と山形県酒田市に取材した作品を中心に、内藤正敏による文章(民俗学)をあわせて展示し、写真と民俗学が“対決”する空間構成により、内藤正敏の仕事をご紹介します。