日本の近代写真の成立と展開を語る上で欠かすことのできない、新興写真の旗手として知られる堀野正雄(1907-1998)。その強烈なまでの個性に満ちあふれた作風により、写真家としての名前は知られていますが、実際の活動の軌跡と評価、位置づけは不十分なものと言わざるを得ませんでした。しかし近年、若い世代の写真史研究者はもとより、デザイン史やメディア史の研究者が強い関心を寄せており、その成果も見えはじめています。
本展は、「幻の写真家」ともいうべき堀野正雄の仕事の全体像を明らかにすることによって、1930年代を中心とする写真史にあらたなヴィジョンを構築する展覧会です。1920年代の築地小劇場を中心とする舞台写真やポートレイト、舞踊家の写真などにはじまり、写真集『カメラ・眼×鉄・構成』、『犯罪科学』誌を中心とするグラフモンタージュ、『NIPPON』や『主婦の友』、『婦人画報』などに発表した報道写真に至るまで、遺族の所有する初公開のオリジナル・プリント作品約100点を中心に、関係資料など併せて200点以上を展示し、戦前の堀野正雄の活動を一望します。日本写真史に重要な位置を占める堀野の全貌に初めて迫る本展は、偉大なる近代写真家の視線とその時代性を体感すると同時に、新しい世代にも注目されているモダニズムの感覚を十二分に堪能できることでしょう。