わたしたちのくらしに溶け込んでいるうつわは、とりわけ飲食の場面には欠かすことの出来ない存在であり、何を使って食べるのか、飲むのか、という選択は思いのほか大きな影響を食生活に与えます。また、周囲を見渡すと、うつわが装飾として、その場の雰囲気を演出する重要な役割を担っていることにも気づかされます。うつわは日常を豊かに変える可能性を秘めているのです。
本展では、食と切り離すことができないうつわ、空間を飾るうつわに焦点をあて、日本・東洋・西洋の古陶磁をはじめ、濱田庄司、河井寬次郎、バーナード・リーチ、ルーシー・リーらの作品など古今東西の陶磁器を中心に、美術館の所蔵品約120点を厳選しました。現在、美術館となっている大山崎山荘は、大正から昭和にかけて関西の実業家・加賀正太郎によって建てられた英国風建築で、かつては居住空間として機能していました。大山崎山荘(本館)では、「食べる」・「飲む」・「飾る」たのしみを支えるうつわをテーマとして展示いたします。大山崎山荘が生活の場であった20世紀初頭、居間、食堂として使用されていた空間で、河井寬次郎やバーナード・リーチらの迫力ある皿・碗・鉢から、薬味入や卵立といった名脇役まで、「食べる」ことに関わるうつわをご紹介します。また、当時貴賓室であった部屋では、濱田庄司や富本憲吉らの作品や李朝時代のものなどから、急須・湯のみ・珈琲碗・マグ、煙草の灰皿のように、一服して「飲む」ためのうつわが並びます。生活と密接に関わっているのは食器だけとは限りません。欧州各地で作られた品々、ルーシー・リー、エミール・ガレらの作品のうち、花器・飾り皿など「飾る」ためのうつわが、山荘の旧応接間を華やかに装います。そして、2012年6月にオープンしたばかりの、安藤忠雄設計による新スペース「夢の箱」(山手館)では、酒器であるビアマグを中心に、芹沢銈介による楽しげなビール乾杯図が描かれた屏風ほか、「呑む」こと、特にビールに関連した逸品をお楽しみいただけます。このように、皿・碗・鉢・瓶…と形態はさまざまですが、何を入れるか、何を乗せるか、いつ、どこで、誰と使うのか、うつわには想像力を掻き立てる余白を見ることができます。わたしたちはそこに、各々の趣向や美意識を反映させた何かを足すことによって、これら用の美をもったうつわの世界を堪能することができるでしょう。その行為は時代・洋の東西を問わず、日々の営みを美しくかたちづくってきたといっても過言ではありません。アサヒビール大山崎山荘美術館という特色ある空間のなかで、当館の多彩なコレクションを通して、イマジネーションを刺激し、うつわが備える“くらしを彩るちから”を改めて感じていただける機会となれば幸いです。