絵本作家・きくちちきが大切にするのは、“絵本を作りたいという純粋な気持ち”。2012年刊行のデビュー作「しろねこくろねこ」(学研プラス)は、翌2013年.スロヴァキア共和国で開催される世界最大規模の絵本原画コンクール「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」(BIB)にて、「金のりんご賞」を受賞。一躍、気鋭の絵本作家として注目されます。
デビュー後は、墨を用いた流麗な線描と余白を生かした作風から一転、息を亥の増した筆の動きにあわせて、多彩な色が画面を彩るようになりました。父親となった喜びとともに、きくちは次第に、「金のりんご賞」の受賞日に誕生した愛息を主人公に投影させて絵本を作るようになります。
実体験に基づき、具体的なエピソードをもとにすることもありますが、息子の成を動物や自然の摂理になぞらえる場合も多く、そのつど作風を変えながら、何冊も美しい絵本を生み出しました。
本展にあわせてきくちが手がけた新作絵本は、猫の“しろ”と犬の“くろ”が主人公のふたつの物語。「しろとくろ」(講談社 2019年9月刊行予定)と、本展の図録掲載のために描かれた「くろ」(武蔵野市立吉祥寺美術館 2019年9月21日刊行予定)もまた、愛息の姿を投影して描かれました。
今回、対となる新作絵本2作の原画全点とラフスケッチ、加えて”絵本にならなかった原画”もあわせて展示。1冊の絵本を完成させるために、多い時は一つの場面で100枚以上、納得するまで描き続けて推敲を重ねる、制作への真摯な姿勢が伝わってきます。
デビューから現在までわずか7年間で生み出された絵本は、20冊以上。きくちは、自身の絵本を“100年越しの手紙”であってほしいと願っています。今、絵本を撮ってくれている人、そして100年後の誰かの心にも寄り添えるように…本展では、代表的な絵本原画や、デビュー前に自費出版していた手製本の原画のほか、今回のために制作された大型バナー作品や立体作品を含め、約200点を展示いたします。
きくちちきのみずみずしい感性と、美しく力強い線描が息づく、えほんせかいをお楽しみください。