平安時代に伯耆国(現在の鳥取県中・西部地域)に現れた鬼才、安綱とその一門。武家社会でその太刀は尊ばれ、秘蔵され、そして神へとささげられました。しかしその門流はいつしか途絶え、その作品は多くは残っていません。
2017(平成 29)年に春日大社で存在が確認された古伯耆の太刀もまた、中世の有力武将の奉納と伝わってきました。この話題を呼んだ太刀の発見を契機に、春日大社では、安綱をはじめ真守、安家、有綱など古伯耆の名刀の原像を調査してきました。
春日大社では、2019年12月28 日(土)から2020年3月1日(日)まで、「最古の日本刀の世界 安綱・古伯耆展」を開催します。本展では国宝・重要文化財に指定された安綱・古伯耆のほぼすべての作品が、900年の時空を超えて、春日大社国宝殿に集結する画期的な展覧会となります。また日本刀は正倉院宝物などにみられる直刀から、刀工の祖とされる大和国(奈良県)の天国が作ったとされる小烏造( 鋒両刃造)や毛抜形太刀といわれる様式を経て、平安時代中期から後期にかけて美しい反りをもつ日本刀が成立しました。
こうした日本刀が成立する過程で安綱は、京都の三条宗近・古備前刀工とならんで、最古級の刀匠とされていることから、國學院大學所蔵の直刀(6 世紀)から、春日大社が所蔵する鋒両刃造の国宝「黒漆平文飾剣」や国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」、大山祇神社(愛媛県)所蔵の「古神宝太刀」をはじめ、日本刀の発祥の地とされる大和、山城、備前の名刀をあわせて展示し、日本刀成立の謎に迫ります。なお、今回展示される作品には、素晴らしい拵(太刀拵)が付いているものが多く、刀身と共に拵(外装)も併せ展示します。また、一説に安綱は奈良市杣ノ川町の出身で、刀剣に反りをつけた最初の刀工という伝承がのこされています。こうした説話がうまれる背景など、文化的側面からも安綱の謎、魅力にせまる画期的な展示となります。