展示室1と2で行われている本展。目玉は展示室2の国宝「那智瀧図」ですが、展示室1の仏教説話画も見応えたっぷりです。
展示室1「絵過去現在因果経」は、下段に釈迦の前世の物語と生涯の伝記をあらわした経文、上段にそれに対応する絵画を描いたもの。文字が読めない人にも仏の教えを伝えるために制作されました。
根津美術館が所蔵しているのは、8巻本のうちの4巻目。出家を決意した若き日太子(のちの釈迦)が、愛馬に乗って城を出ていきます。
重要文化財「絵過去現在因果経」チラシにも出ているユニークなポーズの僧は、弘法大師空海。空海の威徳や霊験(れいげん)をあらわした伝記絵「高野大師行状図画(こうやだいしぎょうじょうずえ)」です。
この場面は中国に渡った空海が唐帝の命を受け、手足と口に筆をとって五行同時に宮中の壁に書いたところ。この一件で空海は「五筆和尚」の名を賜りました。
「高野大師行状図画」そして、国宝「那智瀧図」。展示室2はこの絵のみを展示する、贅沢な構成です。
熊野・那智山の南壁を落ちる那智瀧は、一段の滝としては落差日本一(133メートル)。古くからご神体として崇められています。
遠い熊野の大瀧を礼拝するために作られた本尊画像と考えられているこの絵。瀧の姿が白く浮かび上がるさまは、日本人がもっている自然に対する畏敬の念が込められています。
国宝「那智瀧図」垂迹画の傑作として有名な絵ですが、作者や制作時期など詳しいことは分かっていません。
手がかりになるのは、画面下部の拝殿屋根の左に描かれた、大きな卒塔婆(そとうば)。弘安(1281)4年、亀山上皇が当地を参詣した際に碑伝が建立されており、この卒塔婆がそれならば、それからまもない時期の制作とも考えられています。
実は
根津美術館で「那智瀧図」が展示されるのは3年ぶり。未チェックの方は、お見逃しの無いように。(取材:2013年1月8日)