根津美術館での刀剣の展覧会は、昨年2月~4月の「特別展 清麿」以来。今回は館蔵品のみでの構成です。
まずは「刀」。展覧会タイトルが「江戸のダンディズム」なので、刀身の展示は少なめかと思っていましたが、良い意味で予想違い。太刀、短刀、脇差と計17口が並びます。
まず刃紋は、より華やかな意匠が好まれるように。大坂の刀工・津田助広が創始した濤瀾刃(とうらんば)は、大きな互の目(ぐのめ:刀身の波模様)を波に見立て、地には玉焼き(刃文の間に残る円形文様)が交ります。
刀身には龍などの透かし彫りも入るようになりました。中には刀身を完全に貫通し、裏側にも見事な彫刻を彫り込んだ脇差もあります。
「刀」続いて「拵(こしらえ)」、刀の外装部分です。本来の機能は刀身を保護し、持つ人の身体を傷つけない事ですが、刀剣の象徴化とともに、こちらも装飾的な意味が強くなってきます。
ちなみに、拵は鞘(さや)だけではなく、柄・柄頭・目貫・縁頭・足金物・責金・鐺・鐔・小柄・笄など多くの部品で構成されています。
「拵(こしらえ)」次は「刀装具」。鐔や目貫など、小さなパーツが紹介されています。
多くの部品を組み合わせている事もあり、拵を手掛けた職人の名前はあまり知られていませんが、桃山時代以降になると、金工に職人の名が残るものが見られるようになります。
小さな部品に込められた、驚きの職人技。一部はルーペで鑑賞できるところもあります(ただ、お持ちでしたらミュージアムスコープ(単眼鏡)の持参もお忘れなく)。
「刀装具」最後は「印籠と根付」。印籠は薬をおさめる小型の容器ですが、江戸時代の男性にとっては、うってつけのお洒落アイテム。高度な技を駆使しながら、教養や機知にあふれた意匠がデザインに取り入れられました。
持って歩く事でセンスや財力を示すのは、現代なら腕時計が近いかもしれません。特に凝った印籠は受注生産なので、高位の武家や富裕な町人など限られた人たちが愉しめる高級アイテムでした。
「印籠と根付」 動画最後が《端午蒔絵印籠》柴田是真作根津美術館の展覧会はいつでも美しい照明が印象的ですが、なかでも刀剣は格別。前述の「濤瀾刃」も含め、見事に浮かび上がって楽しめます。
例の刀剣育成ゲームの影響で、急速に関心が高まっている刀剣の世界。展覧会にちなんだ二つの特別催事も、あっという間に定員に達してしまいまったそうです。江戸の男を魅了した刀剣、平成では女子を惹きつけています(講演会やスライドレクチャーはまだ募集中ですので、詳しくは
公式サイトでご確認ください)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年5月29日 ]