10周年の根津美術館。初代根津嘉一郎が蒐集した日本・東洋の古美術品と、都心とは思えない日本庭園は国内外から高く評価され、今夏までに累計225万人が訪れています。
新創開館の第一弾展覧会は「国宝那智瀧図と自然の造形」でしたが、10周年の今回も自然の表現に着目。花と鳥をあらわした作品が揃います。
中国における花鳥表現は、絵画なら唐時代からですが、器物はずっと前から。8世紀の鏡にも鳳凰などがあしらわれています。
会場序盤の注目は、国宝《鶉図》(展示は10/16まで)。南宋時代の宮廷画院で制作された逸品で、羽毛の質感の描き分けは必見です。
花鳥画の歴史として覚えていただきたいのが、黄氏体(こうしたい)と徐氏体(じょしたい)。前者は対象を輪郭線でくくり彩色を加える装飾的なもので、院体花鳥画に。後者は線を用いずに描く野趣あふれるスタイルで、水墨花鳥画に繋がりました。
花鳥表現の定型化した画題として有名な「蓮池水禽図」。鷺と蓮が描かれるのは、音が同じ「一路連科」、つまり科挙合格の願いが込められています。
景徳鎮窯の《五彩蓮池水禽文大甕》も、胴の部分に蓮池水禽が描かれています。稚拙さすら感じさせる表現ですが、のびのびとした画風は明るい生命力を感じさせます。
日本の花鳥画では、狩野派と小栗派の作品を紹介。小栗派はあまり聞きなれませんが、室町時代に狩野派より前に足利将軍家の御用絵師を務めていました。
江戸時代になると、明・清時代の作品を参照した作品が見られるようになります。円山四条派は「写生」を重んじた事で知られますが、かならずしも対象をそっくりではありません。
例えば長沢芦雪筆《竹狗子図》には、コロっとした犬が。写実的ではありませんが、子犬の愛らしさが見事に現れています。まさに、写生=生きているさまを写しているといえるでしょう。
なお、根津美術館は2020年度の展覧会スケジュールも発表。秋には全館を使って根津美術館が所有する国宝7件、重要文化財87件の全てが公開するという超豪華展「根津美術館の国宝・重要文化財」展が開催されます(2020年 11/14~12/20)。お楽しみに。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年9月6日 ]
※絵画はすべて、前期(9/7~10/6)と後期(10/8~11/4)で展示替え、もしくは巻替えされます。