ルドゥーテは、1759年に現在のベルギー南東部で生まれました。ベルギーがフランスの支配下にあった18世紀、ルドゥーテは兄を頼ってパリに上京。王の庭園に通うなかで、植物画家として頭角を現します。まだ写真が無かったこの時代、写実的に植物を描ける能力は、国の科学力を示すためにも大きな意味を持っていました。その名声を不動のものとしたのは、ナポレオン妃のジョゼフィーヌに捧げた『バラ図譜』。多色刷りの点描による銅版画に手彩色する、という時間のかかる技法で描かれたこの作品は、原画に近い色合いが再現されました。
ルドゥーテが残した多くの作品の中でもベスト版ともいえるのが、今回の展示のメインでもある『美花選』です。専門家だけでなく、より広く花を愛する人々のために作られた版画集で、ルドゥーテ晩年の1827~33年に36分冊で刊行されました。カーネーションからアブラナ科のニオイアラセイトウまで、全144種。どれもが本物と見まごうばかりの精緻さで描かれ、植物学的に正確であることに加え、実に麗しく描かれているのが特徴です。
1800年頃からのルドゥーテの作品に見られる作画手法「点刻彫版法」は、輪郭線を描かずに点の粗密によって濃淡を表現する方法です。多色にしても色が混ざらないため生き生きとした生命感を表現できますが、その技法はとても困難であったがために、19世紀以降はあまり用いられなくなっていきました。他の追随を許さない技術で花々を描ききった、ルドゥーテ。フランス革命の混乱期を卓越した技術で駆け抜け、1840年、80歳で死去しました。
今回の展覧会は、いくつかのコラボレーション企画も用意されています。Bunkamura内のレストラン「ドゥ マゴ パリ」では、展覧会をイメージしたオリジナルケーキ「バラのシャルロット」を発売(コーヒーまたは紅茶付きで1,050円)。1階のフラワーショップ「プレジュール」でも、『バラ図譜』で描かれたような様々なバラが期間限定で販売されます。また、復興支援チャリティ企画も行われており、ルドゥーテも数多く描いたスイセンの花をモチーフにした缶バッジを会場出口で販売(300円)。売上は全額、震災の義援金として寄付されます。
1989年に開館した渋谷の大型複合文化施設、Bunkamura。シアター、オーチャードホール、ミュージアム、ギャラリーなどが入り、すっかり渋谷の文化の顔として定着しましたが、設備改修工事のため7月4日から12月22日まで休館。つまり、本展が休館前の最後の展覧会になります。本展では花柄アイテムを身につけて来館すれば入場料が100円引きになるというドレスコード割引もあります。お花ムードで装ってから、渋谷にお出かけ下さい。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2011年5月30日 ]