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    メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで
    大阪市立美術館 | 大阪府

    大阪市立美術館 「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」

    撮影・文 [エリアレポーター]白川瑞穂 / 2019年8月9日

    浮世絵のリーダークスコレクションや若冲のブライズコレクションなど、海を渡った素晴らしい江戸時代の名品の里帰り展が近年相次いでおり、独自の感性で選び抜かれた状態も良い作品に感銘を受ける機会が増えて嬉しいものです。

    今回の展覧会は、初期浮世絵や広重を中心とした浮世絵をコレクションした米国人女性メアリー・エインズワースの所蔵品展です。
    彼女の死後、所蔵品は出身大学であるオーバリン大学に寄贈されました。大学付属美術館で保管、管理されているそうですが、作品の性質上、脆弱なため貸し出しはほぼ無く、米国内でも今回ほどまとめて展観できることがないとのこと。
    大変貴重な機会です。


    五章立ての展示は浮世絵の発展を時系列で追う形になっており、このコレクションで浮世絵の技術、表現の変化を体感することができます。

    最初は墨摺絵からはじまった初期浮世絵。古今東西の浮世絵ファンやコレクターは、まず後期のビックネームによる多色摺の浮世絵に魅せられることが多いそうですが、メアリーが最初に収集を始めたのが初期浮世絵でした。

    鳥居清倍 雪中傘を差す遊女と侍女 正徳期(1711〜16)頃 大々判墨摺筆彩 56.4×32.1cm 署名「鳥居清倍」印章「清倍」版元:中嶋屋伊左衛門
    墨摺の版画に手彩色を施し、原始的な美を湛えた初期浮世絵。メアリーもこれらのミニマムな美しさに魅了されたのでしょうか。

    版による彩色が始まり、素朴な色摺の紅摺絵の時代に。人々の日常や美人画、人気の役者絵など、大衆に幅広く愛される浮世絵となりました。
    紅摺絵の発展に貢献した鈴木春信が初期の時代に手掛けた天神図、大判の歌舞伎絵はそれぞれ世界で1点しか確認されておらず、メアリーはその貴重な作品を収集しています。

    鳥居清長(1752-1815) 洗濯と張り物 天明(1781-89)後期 大判錦絵3枚続(右)38.4×26.0cm、(左)38.5×25.3cm 署名「清長画」版元:蔦屋重三郎
    美人画、役者絵を中心的画題としてきた浮世絵に変化をもたらしたのは、おなじみ葛飾北斎の富嶽三十六景。すでに富嶽信仰も普及していた時代でした。
    作品の状態がとても良く、状態の良いものを丹念に選んで購入していたことが見てとれます。

    葛飾北斎(1760-1849) 「富嶽三十六景 相州梅沢左」 天保2-4年(1831-33)頃 大判錦絵 26.1×38.7cm 署名「前北斎為一筆」版元:西村屋与八
    さらに個性的な風景画で注目を集めたのは歌川国芳。すでに西洋画のような陰影表現も取り入れています。

    最後の章では、エインズワースが多数収集した歌川広重の作品を紹介。エインズワースが浮世絵作品を収集していた明治期には、広重の作品はまだ比較的多数手に入れやすかったとはいえ、摺りの異なる作品も収集しており、広重作品への愛着を感じます。

    左 歌川広重(1797-1858) 「名所江戸百景 両国花火」 安政5年(1858)8月 大判錦絵 37.4×25.6cm 署名「広重画」版元:魚屋栄吉 改印「午八」
    右 歌川広重(1797-1858) 「名所江戸百景 両国花火」 安政5年(1858)8月 大判錦絵 36.6×23.9cm 署名「広重画」版元:魚屋栄吉 改印「午八」

    展示の途中には、エインズワースのコレクションに関する資料も紹介されています。
    1938年の5月に発行された「古今東西浮世絵数寄者総番付」には古今の浮世絵「数寄者」がランキングされ、様々なジャンルのそうそうたる名が並ぶ中、エインズワースの名も挙がっています。

    また、併設のコレクション展では館所蔵の北斎の肉筆画や、エインズワースコレクション展に展示されている作品の参考にされたと考えられる資料や、美人画にも登場する女性が使っていたような化粧道具の展示も。
    浮世絵に描かれた世界観をより広く見せてくれます。


    美しい発色が楽しめる、状態の良い作品や稀少な作品を通して、エインズワースの審美眼、美的感覚が感じられる素晴らしい展覧会でした。
    この貴重な機会にぜひご覧ください。



    会場大阪市立美術館
    開催期間2019年8月10日(土)~2019年9月29日(日)
    休館日月曜日(祝休日の場合は開館し、翌火曜日休館。8月13日は開館)
    開館時間9:30~17:00(入館16:30まで)
    所在地大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82
    06-6771-4874
    HP : https://www.osaka-art-museum.jp/
    料金一般 1,400円、高大生 1,000円
    展覧会詳細へ 「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで」詳細情報
    エリアレポーターのご紹介
    白川瑞穂 白川瑞穂
    関西在住の会社員です。学生の頃から美術鑑賞が趣味で、関西を中心に、色々なジャンルのミュージアムに出かけています。観た展示を一般人目線でお伝えしていきます。

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    会場
    大阪市立美術館
    会期
    2019年8月10日(土)〜9月29日(日)
    会期終了
    開館時間
    9:30~17:00(入館は16:30まで)
    休館日
    月曜日(祝休日の場合は開館し、翌火曜日休館。ただし、8月13日(火)は開館)。   ※災害などにより臨時で休館となる場合あり。
    住所
    〒543-0063 大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82【天王寺公園内】
    電話 06-6771-4874
    公式サイト https://www.osaka-art-museum.jp/
    料金
    一般 1,400(1,200)円 / 高大生 1,000(800)円

    ※( )内は、前売および20名以上の団体料金
    ※中学生以下、障がい者手帳などをお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)。
    ※本展は、大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要です。
    展覧会詳細 「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション -初期浮世絵から北斎・広重まで」 詳細情報
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