東京オペラシティ アートギャラリー 「カミーユ・アンロ 蛇を踏む」
文 [エリアレポーター]
新井幸代 / 2019年10月15日
東京オペラシティアートギャラリーでは、現代美術家カミーユ・アンロの個展が開催されています。
日本では、これまで映像作品を中心に紹介されてきましたが、インスタレーションやドローイング作品を含めた総合的な展示となっています。
最初の展示室はシリーズ作品、シリーズ〈革命家でありながら、花を愛することは可能か〉を集中的に展示しています。
〈革命家でありながら、花を愛することは可能か〉2011-/ミクストメディア/展示風景(2019)
このいけばなに触発されたシリーズは、作品それぞれが一冊の本に由来します。
本の題名、著者を作品タイトルとし、花材、本の一節が添えられ、花器のデザインを含めて作品になっています。2011年から継続されており、日本での開催に合わせて新作が追加されました。
これまで、いけばなの本を読み独学で学んだそうですが、本展ではいけばな草月流の全面協力により会場で制作されたことも特徴です。
展覧会タイトルともなった〈蛇を踏む 川上弘美〉では、蛇のようにくねくねと曲がった独特な花器、絡みつく花材と取り合わせたとりかぶとの紫色が妖しさを増して、存在感を放っていました。
〈蛇を踏む 川上弘美〉ミクストメディア
〈見えるものと見えないもの モーリス・メルロ=ポンティ〉は、大胆にも花器の口に花材が置かれた作品。"或る私的生活の下位宇宙があることをほのめかしながら"という一節を読んでから作品を観ると、下位宇宙と花器がクロスオーバーして見えます。
〈見えるものと見えないもの モーリス・メルロ=ポンティ〉ミクストメディア
〈指輪物語 J.R.R.トールキン〉は、作中にも出てくるルーン文字で表現されていました。
〈指輪物語 J.R.R.トールキン〉ミクストメディア
また、展示室をまるごと使って制作された大型インスタレーションの《青い狐》。
《青い狐》2014/ミクストメディア/展示風景(2019)
こちらは、情報量の多さにどこからどうやって見ていけば良いか分からず、立ち尽くすほどです。
アフリカ・ドゴン族の創世神話『青い狐 ドゴンの宇宙哲学』をもとに空間全体が構成され、壁4面それぞれに、ドイツの哲学者ライプニッツの提唱した原理が割り当てられています。
ライプニッツは哲学だけでなく、論理学、心理学、数学、自然科学などの研究をし、「普遍学」として体系付けようとしていた人なので、アンロの膨大なリサーチ対象である文学、哲学、美術史、天文学、人類学、博物学、現代の情報学などの知的好奇心の幅広さと相通じるものを感じました。
作品に触れるほど、アンロが世界をどう捉えているかを知りたくなり、そのためにはインスピレーションを与えた本を読み込んだ上でもう1度鑑賞し、アンロというフィルターを通す前後を自分の力で読み解いてみたいという思いに駆られる展示でした。
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