昭和の写真界に大きな足跡を残した土門拳と入江泰吉は、ともに大和路を愛し、数多くの秀作を発表しています。土門と大和路の出会いは、昭和14年に室生寺を訪れた時から始まります。以後四十年間に及ぶ、大和路をはじめ全国の古寺への取り組みは、病に倒れた後も不自由な身体をおして続けられました。生涯、日本と日本文化の追求に終始した、その成果がライフワーク「古寺巡礼」です。また入江は、昭和20年に大阪で戦災に遭い、ふるさと奈良に帰ってきました。そして終戦の年の秋、奈良の古美術が米軍に賠償として持ち帰られるという噂を耳にしたのをきっかけに、奈良の仏像の撮影を始めました。以来、風景や仏像、伝統行事、万葉の花、大和路の一木一草にいたるすべてが被写体とあり、約半世紀にわたって見つめ続けてきました。二人の作品は、同じ大和路であっても「動」と「静」のように対照的です。土門は、レンズをギリギリまで絞る精鋭描写によって実在感に迫り、仏像や建築に質感や量感をとらえています。入江は、大和の歴史を重視し、古来繰り広げられてきた人間ドラマに思いをはせ、静謐で叙情豊かな作品に仕上げています。
このように二人の作風は異なりますが、「日本の美」や「日本の心」を追求するという点においては共通し、それぞれ独自の歴史観や美学を持って表現してきたのです。