咲き誇る花々、舞い飛ぶ鳥たち。自然の中でもとりわけ人の心をひきつけてやまない「花」と「鳥」は、古来より美術工芸において愛されてきたモチーフです。
季節を彩り、吉祥をあらわし、ときに主役、ときに背景としてあらわれる花と鳥の姿。そうした表現が見られる屏風、掛軸、工芸品など、館蔵品から選び抜かれた名品・優品を紹介する展覧会が、三井記念美術館で開催されています。

三井記念美術館「美術のあそびとこころ―花と鳥―」会場入口
会場の冒頭には、美しい青磁の色合いが目を引く《青磁浮牡丹文不遊環耳付花入》が展示されています。大きく咲いた牡丹の花が胴部に表されており、柔らかな花びらの質感まで丁寧に造形されています。
牡丹は、富や高貴さを象徴する「富貴の花」として親しまれてきました。

《青磁浮牡丹文不遊環耳付花入》南宋~元時代・13~14世紀
《紫陽花蒔絵茶箱》には、蓋と側面に6本のアジサイの枝が金銀の蒔絵や切金で繊細に描かれています。両側にはアジサイの葉をかたどった銀製の紐金具があしらわれ、赤い組紐がアクセントになっています。
中にはすべて銀製の道具が納められ、夏の花アジサイの涼やかなイメージとよく調和しています。

《紫陽花蒔絵茶箱》江戸時代・19世紀
中国・江西省の吉州窯で焼かれた玳皮盞(たいひさん)は、鼈甲のような釉薬の色味が特徴です。
重要文化財《玳皮盞 鸞天目》の見込みには、長い尾をなびかせて飛ぶ二羽の鳥が描かれており、これは吉祥をもたらすとされる空想上の鳥「鸞(らん)」といわれています。神秘的で優雅な姿が魅力です。

重要文化財《玳皮盞 鸞天目》南宋時代・12~13世紀
《鳥類真写図巻》は、江戸時代の画家・渡辺始興が実に24年をかけて描いた長巻作品。全長約17.5メートルにもおよび、63種の野鳥が生き生きと表現されています。
鳥の大きさや羽の色などの細かな記録からは、始興の深い観察眼と自然への敬意が伝わってきます。

渡辺始興《鳥類真写図巻》江戸時代・18世紀
中央に黄色い牡丹の花、そのまわりを二羽の鳥が囲む《交趾金花鳥香合》。鳥は長い尾をもち、鳳凰を思わせる姿から「金花鳥(きんかちょう)」と呼ばれています。
これは中国・福建省南部の窯で焼かれた交趾(こうち)焼の一例で、東アジアにおける鳥の意匠の豊かさがうかがえます。

《交趾金花鳥香合》明時代・17世紀
《色絵雉香炉》は、明治から大正期に活躍した陶芸家・永樂妙全による作品。国宝「色絵雉香炉」(野々村仁清作)を思わせる構成で、キジの姿を写実的かつ華やかに再現しています。
赤、青、緑に金彩を施し、羽や尾の細部まで緻密に表現されています。鳥好きとして知られる新町三井家に伝わったものです。

永樂妙全《色絵雉香炉》明治~大正時代・20世紀
清時代の画家・沈南蘋(しん・なんぴん)による花鳥動物図も見逃せません。濃密な彩色と写実的な描写を得意とした沈南蘋は、日本の円山応挙や伊藤若冲にも影響を与えた人物です。
今回は、北三井家に伝わる全11幅のうち、花と鳥が描かれた6幅が展示されています。彩り豊かで生命感あふれる構図が見どころです。

沈南蘋《花鳥動物図》清時代・18世紀
花と鳥を通して、人々が自然に込めた祈りや美意識を感じることのできる本展。多彩な作品を通じて、自然と芸術のつながりをあらためて味わうことができます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年6月30日 ]
※作品はすべて三井記念美術館蔵