近頃の京都では和服を着て観光する外国人が目につきます。一度着てみたかったと好評のようです。一方日本人はというと、お茶・お華のお稽古をしている方か、少し年配の方々に着用が多いように思います。皆さんは日常着物を着用されますでしょうか?
先日、京都国立近代美術館で始まった企画展「きもののヒミツ」の内覧会に参加しました。ちょっとコアなラインを主軸に据えた展覧会で、キモノの見方が変わるかもしれません。

京都国立近代美術館での開催
小袖と呼ばれた衣服が様々な技法で装飾されて現代のような華やかなものになってゆく過程を多角的に歴史的にたどってゆく内容です。まずは江戸時代の小袖や帷子が飾られています。細かい刺繍や金銀箔を織り込んだ鮮やかな色彩と華やかな模様がほぼ全面を覆い印象的です。

《帷子 白麻地唐扇花束模様》《帷子 納戸麻地春景水辺模様》 いずれも江戸後期 千總ホールディングス所蔵
江戸時代には「ひながた」と呼ばれる出版社があり(今で言うカタログでしょうか)、着物の形に模様が書き込まれていて、それを見ながら好みの柄やイメージを選んで着物に仕上げていたようです。全体に模様があるのは上級階級や裕福な人が着たそうで、百人一首や物語などこだわった柄や風景、文字の入ったものもあります。

『正徳ひな形』西川祐信画 正徳3年 千總ホールディングス所蔵
明治時代になると千總の十二代西村總左衛門は京都画壇の作家たちに下絵制作を依頼するようになり、それまでの友禅柄から少し変わった図案が描かれるようになりました。代表的画家である円山応挙や木島櫻谷などにより斬新な意匠が登場することになり、これまでの少々型にはまったパターンを脱し、モチーフが多彩になりました。

重要文化財《写生図鑑(甲巻)》一部 円山応挙 明和8~安永元年 千總ホールディングス所蔵 ※8月17日まで展示

左)《友禅染裂 湊取百花》 梅村景山下絵 明治18年 右)《友禅染裂 御簾に大菊》 幸野楳嶺下絵 明治23年 いずれも千總ホールディングス所蔵 ※8月17日まで展示
展示は下絵図案とそこから生まれた友禅染裂が並べて配置されていますので、図案が実際に反物になるとどうなるのかを見ることができます。人気の画家による着物でお洒落を楽しんだ人々が大勢いたに違いありません。

展示風景

左)《図案 波に海松(「第壱回懸賞募集図按 夏模様 壱」のうち)》明治31年 右)友禅染裂 波に海松 明治後期~大正 いずれも千總ホールディングス所蔵
同じ図案でも色彩や配置をアレンジすることによって随分印象が変わるものも多く、友禅染技法とのセッションがどんどん新しいものを生み出しました。模様は上下をあいまいにした連続性のあるものが良く、仕立てた時や着用したときに見栄えのするように配置し染められます。平面図案から立体化した時のことに熟慮が必要です。この展覧会の大きな視点として“平面の美と着ることによる立体の美”の相互両面性を重視することは重要なポイントです。

《友禅染裂 琳派百花》 神坂雪佳原画 昭和10年 いずれも千總ホールディングス所蔵 配色の違いによるイメージが伝わる
1900年のパリ万国博覧会を経て、古典柄からアール・ヌーヴォーや洋風柄への流行の推移もみられました。吉祥柄や縁起柄も人気があり、そこにモダンさを加味したり外国の民藝的要素などを入れた柄も注目され、三越など百貨店による流行の牽引も大きな効果となりました。よろけ縞やエジプト柄などには驚きました!

《友禅染裂 斜めよろけ縞に花鳥》 明治39年 千總ホールディングス所蔵 ※8月17日まで展示 世界の民藝との関りも感じる

《友禅染裂 横段埃及風裂散らし》 明治後期~大正 千總ホールディングス所蔵 ユニークなモチーフが登場
この展覧会では、単に着物の美しさだけを魅せるものではなく、友禅染と図案など京都の伝統文化がクロスしながら生まれた着物をじっくり鑑賞することで、そこに織り込まれたヒミツが解き明かされるという一種の謎解きのように楽しむことができるような気がします。関連した工芸品や絵画から人間国宝作家による作品なども出品されており、音声ガイドがとても役立ちます。
通常の作品解説パターンではなく、時代背景ときものをうまく結び付けて説明してくれていますので是非利用をお勧めします。もちろんミュージアムグッズも華やかでかわいいものが並んでいますので選ぶのに時間がかかってしまいますよ。時間と気持ちにゆとりをもってお出かけいただき、同時に京都の夏をお楽しみいただければと思います。

ミュージアムショップも華やか
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2025年7月18日 ]