本展では、鉛筆やシャーペン、消しゴムなどのシンプルな描画材を、微妙な筆圧による素朴な技法で操り、線と面によるデリケートな表情で独自の世界を表現している作家9名の作品を展観いたします。
鉛筆は、人間が、書く・描く行為のなかで、ベーシックに用いられてきた描画材です。「黒鉛」という滑らかで細かい粒子を粘土と固めて棒状の形をつくり、高温で焼成することにより微妙な圧力を吸収する強度と弾力のある芯ができあがります。その素材事態が魅力的な棒状の筆記用具は、描く時の筆圧の操作によって、人間の目が知覚できる微妙な差異を実にデリケートに表し、豊かな表情を生み出すことができます。また黒色の鉛筆は、黒鉛とは質の異なる闇を表すことが可能で、その黒によるトーンの幅はしっとりとした空間と空気を感じさせ、黒鉛とは違う魅力を投げかけてくれます。
いまやコンピューターなどの普及によって、紙と鉛筆を日常的に使うことは以前に比べると少なくなっていますが、逆に、描く行為の中でこの描画材の魅力は、素朴ながら無限に広がっているといえます。材料としての鉛筆や黒鉛は、現在、その素材の深い魅力を知ったものだけが入り込める、極めて創造的な世界をつくる素材として若い世代をも捕らえているようです。本展では、そうしたことが感じられるさまざまな表現から、<芯>のあるコンセプトを持ち<確かな技術>で表現を続けている作家の<細密な手の痕跡>を幅広くご紹介していきます。意外性に富んだ、奥深い鉛筆と紙の表現をお楽しみいただきます。関連催事として、出品作家によるワークショップやギャラリーツアーなども多数行う予定です。