1977年11 月に開館した国立民族学博物館は、今秋、開館30周年を迎えます。それを記念した特別展「オセアニア大航海展」は、ニュージーランドのオークランド博物館が企画した「ヴァカ モアナ」展を組み込んだ形で企画されました。「ヴァカ モアナ」は、ニュージーランド、日本をはじめオーストラリア、台湾、オランダ、アメリカなど世界各地を5 年間かけて巡回する大規模な国際展覧会です。
舞台は地表の3分の1を占め、「水半球」とも呼ばれるオセアニア、つまり太平洋がこの展示の舞台になりますが、この大海原に点在する島じまがヨーロッパの人びとに知られるようになったのは、今から約400 年前、大航海時代のことです。しかし、そのはるか昔に、何千年もの時をかけてこの大海原を航海し、前人未到の島じまへの移住を成功させた人びとがいました。現在のポリネシア人の祖先たちです。彼らは東南アジアから太平洋を横切り、東はイースター島、西はマダガスカルへと何千キロメートルにもおよぶ地球規模の大移動を成しとげたのです。
方位磁石や海図などの近代計器がなかった先史時代に、新天地を求めて太平洋という未知の世界へ漕ぎ出していった、勇敢で好奇心に満ちたオセアニア地域の人びとの知られざる歴史と偉業は、ともすれば夢を失いつつある現代の人びとに、限りない夢と勇気を与えるものと思います。
本展覧会は、人類史上最後のフロンティアとなった広い太平洋を舞台に繰り広げられた、この壮大な海のドラマを紹介するとともに、その末裔たちの現在の多様な暮らしぶりを紹介いたします。ここでは、国立民族学博物館が開館してから今日までの30 年間という急速な社会・環境の変化の時期に注目してみたいと思います。
観覧者のみなさまには本展覧会をとおして、勇敢な大航海者を祖先にもつオセアニアの人びとの歴史と現在の生活、そして将来を私たちとともに考え、経験していただくことで、従来「楽園」のイメージだけで語られてきたオセアニアと、そこに暮らす人びとの真の姿を知っていただくよい機会となることを願っています。