萩原英雄は1913年甲府に生まれました。東京美術学校の油絵科を卒業した彼が、木版画を始めるようになったのは結核の療養中に、年賀状を作ってからでした。写実から抽象への転換を図っていたこの時期に、彼は木版画との運命的な出会いを果たします。そして、彼はこの木版画で何とか油絵に匹敵するような深みのある表現が出来ないかと試みます。
はじめは手探りでの制作でしたが、「両面摺り」や「木版凹版」などの画期的な技法を次々に生み出し、萩原は一躍、日本版画界の寵児となりました。
そんな萩原を評するとき、ある人は「抽象版画のハギワラ」という呼び方もします。アンフォルメルの全盛に身をおき、技法の開発によってその道を模索した萩原の代表的な作風が抽象的な傾向を示しているからです。しかし、それは、あくまでも自らが信じた芸術的理念を追求するための抽象であり時代の動向とは、距離を保ったものでした。萩原が標榜したのは、「装飾的な平面の空間」でした。それは油絵で感じていた西洋と東洋の体質の違いを克服する融合であり、主に色と形による自己流の抽象であったのです。
美妙な色彩と、線のもたらす美しさを駆使した「追憶」のシリーズなど、荻原英雄のアブストラクトを中心に構成する展覧会です。