展覧会概要
名古屋市にある愛知県美術館で、同館の所蔵作品を中心に、1919年から2019年までの愛知を中心とした前衛的な美術の流れをたどる展覧会が開催されています。
同館の他、近隣の名古屋市美術館、豊田市美術館の所蔵作品に加え、作家所蔵の作品、資料を合わせると展示総数は200点を超え、とても密度の濃い内容でした。
展示室では、年代をたどりながら、絵画、彫刻、陶芸、写真と幅広いジャンルの作品を見ることができ、さながら愛知の前衛的な美術に関する100年分の備忘録をパラパラとめくっていく感覚でした。
それでは、印象に残った作品を数点ですが、年代順に紹介することにします。
作品について
第3章 「シュルレアリスムの名古屋」
尾沢辰夫 《鴨》 1938年 油彩、キャンバス 愛知県美術館
描き方が平面的で、中央の人物が人形のように見えます。前章までの写実的な人物表現に比べ、明らかな変化を感じます。
画面の四方を囲うように梁、柱、床が描かれ、画像には映っていませんが、さらに額縁がついているので、二重額?と錯覚しました。
尾沢辰夫は、弱冠37歳で病没し、作品のほとんどが戦災で失われていますが、愛知の美術にとって隠れた重要人物のようです。
第5章 「日本画と前衛」
《名古屋城再建基金ポスター原画》(杉本健吉 1956年 名古屋市美術館)
昨年末頃、現在のコンクリート製の名古屋城天守閣を木造で再建するプロジェクトの特集をテレビニュースで見たことを思い出しました。
今回の再建プロジェクトでは、ポスターは作らなかったのでしょうか。もし、制作されていれば、見比べてみたいと思います。
杉本健吉の作品で有名なのは、新・平家物語の挿絵でしょう。知多半島には杉本美術館という、夕日の良く見える美術館があり、油彩、水彩などの作品を見ることができます。
第7章 「美術家たちの集団行動」
《ウォーキングマン》(岩田信市 1969年 愛知県美術館)
当時の栄、今池あたりを歩く作家の姿を横から映した映像作品です。
背景に商店、地下街、空地、テレビ塔などが映りこんでおり、妙に面白くて全編(15分間)見入ってしまいました。
洋服店、時計店、雑貨店、薬局は映っていましたが、コンビニは映っていなかったと思います。
岩田信市は、ハプニング集団「ゼロ次元」のメンバーで、後には歌舞伎とロックを融合させたロック歌舞伎を名古屋の大須演芸場で上演し、好評を得たようです。
ぷろだくしょん我S 《人形参院選》 1974年 空気人形 名古屋市美術館
一見しただけでは、何が何やらわからない不思議な作品です。
一緒に展示されていた当時の週刊誌を読んだところ、発表当時はかなり話題になったようです。
週刊誌の写真の人形は叫んでいるように見えましたが、展示室で見る人形はおとなしく整列し、沈黙しているようです。時代の変化により、作品の印象も大きく変わるのだと思いました。
第9章 「美術館の内と外」
村瀬恭子 《Watering Place》 2008年 油彩・色鉛筆、綿布 豊田市美術館
森の中で木々の間を風が吹き抜けている場面のようですが、よく見ると中央の木の後ろに人物が隠れています。
人物に気がついた途端、その視線が気になり、ざわざわと不安な心持ちになる作品でした。
前章までの風景画とはずいぶんと異なる、まるで抽象画のような心象風景です。そういえば、この作品の周りの作品もほとんどが抽象画でした。
この作品を見たとき、愛知県美術館以外でも見ている気がして、作品解説を読むと所蔵は豊田市美術館でした。
そこでようやく、ずいぶん以前に、この作家の展覧会を見るために豊田まで行き、美術館前の急な上り坂を上ったことを思い出しました。
9章では、以前のあいちトリエンナーレに出品されていた作品も見ることができました。
先日、スーパーのエスカレーター脇で、あいちトリエンナーレ2019の紫色のポスターを見かけ、特売チラシよりも目立っていることに驚きました。
今年も8月1日からトリエンナーレが始まるので、楽しみにしています。
閑話休題
最後に、展示構成で気づいたことがあります。
例えば、章ごとに掲示されている説明パネルですが、1章では年代表記が“1918-1871”となっていて、“左側の数字>右側の数字”です。
しかし、3章では“1930-1940”と表記され、“左側<右側”です。
不揃いの表記を不思議に思いながら、続きの展示を見ていたのですが、途中で不揃いの理由が(おそらく)わかりました。
愛知県美術館にて
1章のように“左側>右側”の場合、説明パネルから左に進むにつれ、制作年の新しい作品が並び、3章のように“左側<右側”の場合は逆に、右に新しい作品が並ぶようでした。
つまり、展示室内の導線を説明パネルの年代表記で示していたようです。(例、“1918←1871”、左側へ進む)。
実際の説明パネルは撮影できませんでした。気になった方は、ご自身で確かめてみてください。
さて、矢印の真偽は不明ですが、全館コレクション企画展といいながら、見慣れた名品の他、初めて見る作品も多数あり、ゆったりと楽しむことのできる展覧会でした。
以上
エリアレポーターのご紹介
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ひろ.すぎやま
近現代美術、演劇、映画をよく見ます。
作品を見る時は、先入観を避けるため、解説などは後から読むようにしています。
折々に、東海エリアの展覧会をレポートしますので、出かけていただく契機になれば幸いです。
名古屋市美術館協力会会員、あいちトリエンナーレボランティア。
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