お札を見てすぐ目に飛び込んでくるのはやはり肖像でしょう。日本の場合、現行のお札の表面には人物の肖像が採用されていますが、1万円と千円券の裏面には動物が描かれています。では、世界のお札ではどうでしょうか。大多数の国々のお札では、それぞれの国で活躍した政治家、文化人、あるいは君主の肖像がお札の「顔」となっていますが、なかには動物達がお札の「顔」となっている国があります。
一般にお札に肖像を使用する理由は、国民によく知られている人物を用いることによって、尊敬の念や愛国心を高めるなどのほか偽造防止効果があるためと考えられます。それに対して、お札の「顔」に動物を採用する理由は、その国の複雑な社会的背景から人物を描くことが難しかったり、あるいはその国の特徴を表現するために自然や動物を採用することも考えられます。
お札の表裏に主な図柄として採用される動物たちは、その国に生息していて国民に親しまれているもの、その国を代表する世界的にも珍しい特徴のあるものが多いようです。また実在しない想像上の動物も、富や権威を象徴するものとして描かれることがあります。
さらに動物の図柄は、お札のすかしの部分や紋章にも見つけることができます。お札の表面の印刷を施していない空白部分に光を当てると画像が浮かび上がりますが、それが「すかし」です。「すかし」は、お札の紙を作る段階で紙の厚さを調節して製造しますが、この偽造防止対策上効果的な「すかし」にも、動物たちを用いている国があります。
お札に印刷されている国家や銀行などの紋章は通常は小さく印刷されていますが、これを拡大してみると、紋章の図柄の中にはその国の建国の由来を表すシンボル的な図柄とともに、その国を代表する動物の図柄をマークの一部に使っていることもあります。
このようにお札が描かれている動物は、単なるデザイン上のモチーフとしてだけではなく、人物の肖像と同様に、お札を発行している国を代表する役割を与えられているのです。