インドは21世紀にはいっていわゆる「ブリックス」(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国の一つとして世界の注目を浴びる存在となっています。1990年代から始まった経済自由化によってインド社会は大きな変貌を遂げていますが、今後ますます加速することが予想されます。こうした変化は都市のいわゆる中流層を中心に、海外に在住するインド人をもまきこんで、ライフスタイル全般にわたる大きな変化をつくりだしています。
一方、世界のファッション界では、1970年代からくりかえし「エスニック・シック」といわれるオリエンタリスト的な趣味が流行し、ここ10年ほどのあいだにも日本、中国、ベトナム、インドネシア、さらにはアフリカなどの伝統衣装が欧米のデザイナーの感性を刺激し、新しいファッションがつぎつぎと生みだされています。
こうした動きは当然ながらインドのファッション界にもおよんでいます。従来インドへの関心は、オリエンタリスト的な視点から、「民族衣装」としてのサリー、あるいは、かすり、しぼり、さらさなどの「伝統的」な服飾文化・染織技術などに限定されていました。しかし、サリーにも流行があり、またインド出身のファッション・デザイナーが世界的に活躍していることからも、インドの服飾文化を固定した「民族衣装」ではなく「ファッション」としてとらえる視点が必要です。
今回の展示では、最新のサリーと有名デザイナーによる作品を展示し、変貌する現代インドのすがたをご紹介します。とくに、現代のデザイナーが「インド」のイメージをどのようにファッションにいかそうとしているか、またファッションにおける「インド」イメージがナショナリズムと連動してどのようにつくられてきたのか、に注目し、さらには、インド内での地域差・階層差や、インドの枠を超え出るファッションもご紹介するとともに、関連イベントによってひろくインド文化に触れていただく機会ももうけています。