■バンジャマン・ルボーって誰?
ルボーは、南仏の小村ロクヴェール(一説にはマルセイユ近郊)に生まれ、パリに出て風景画や静物画などを本格的に学んだ画家です。1841年秋から没する1847年までアルジェリアに滞在、東洋的主題の絵をサロン展に出品しています。しかし彼の名は何といっても諷刺画の分野で輝きを放っています。1834年、23歳のときに政治諷刺画でデビュー、ドーミエを発掘したシャルル・フィリポン主宰の諷刺画『カリカチュール』、『シャリヴァリ』をはじめ、『イリュストラシオン』、『ギャラリー・ド・ラ・プレス』などに寄稿。その後、力強い表現力を武器にしてルイ・フィリップ治世下の著名人を描いて一世を風靡し、強烈な戯画像で記憶に残る画家となりました。彼の描いた人物戯画群は時代の息吹を伝える一級の資料に今もなお数えられています。
■《パンテオン・シャリヴァリック》ってどんな作品?
本展で紹介する《パンテオン・シャリヴァリック》シリーズは、ルボーの描いた人物戯画のなかでも最高傑作のひとつです。歴史に名を残す19世紀の諷刺誌「シャリヴァリ」紙上で4年間にわたり本シリーズは掲載され、作品は100点余りにのぼりました。本展ではそのなかから当館で所蔵する約70点を初公開します。もとは古代の汎神殿を意味し、いつからか偉人たちの霊廟を表すようになった「パンテオン」。本シリーズは、「シャリヴァリ」紙をパリのパンテオンにみたて、19世紀の花の都パリを彩った画家、彫刻家、小説家、詩人、ジャーナリストなど、芸術に秀でた才人たちで埋め尽くされています。戯画化された登場人物は目を奪われるほどユニークで、巨大な頭に、尖った鼻、丸い瞳に、大きな口と、特徴がよく捉えられつつも多彩な表現で見事にデフォルメされています。自然と各々の個性が伝わってくるのは、ルボーの鋭い観察力と確固たる描写力に支えられているからでしょう。