ヘルマン・ムテジウス(1862-1927)は、ドイツ近代デザインの発展を語る上で欠かすことのできない「ドイツ工作連盟」の中心的イデオローグとして活躍した人物です。ドイツにおけるイギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の紹介者として知られ、若き日には日本滞在の経験もあります。ムテジウスは、建築家として数多くの素晴らしい郊外住宅を設計する一方で、生涯ドイツ政府の官吏として、「ドイツ工作連盟」の理念でもある芸術と産業の近代化に尽力し、それを支える工芸学校教育システムの改革に腐心しました。また、彼の幅広い批評活動は、数々の書籍や新聞雑誌記事として公開され、当時のデザイン理念の動向に大きな影響を与えました。しかし、1914年のドイツ工作連盟展開催を機に起こった「規格論争」で連盟内の若い世代から批判を浴びたため、その後彼の活動が採り上げられる機会は残念ながらほとんどありませんでした。
ドイツおよび日本で所蔵されている作品・資料約250点で構成される本展では、20世紀初頭における近代デザインの動向を、ドイツ工作連盟の活動を中心に、バウハウスを金字塔とする従来の近代デザイン史の文脈から回顧するのではなく、ヘルマン・ムテジウスの言説から再構築することを目的としています。そうすることで、今まで見落とされがちであった様々な要因に光が当てられ、近代デザイン史に新たな視点を提供できるものと信じます。