ポーラ美術館では、開館以来初となるフィンセント・ファン・ゴッホをテーマとした展覧会を開催いたします。
わずか37年の生涯のなかで、数多くの絵画を制作したゴッホの名声を築き上げているのは、うねるような筆触とあざやかな色彩による独自の様式、そして何よりもその劇的な生涯に対する評価であると言えるでしょう。わが国でも明治末期以降、個性と情熱にあふれたゴッホの作品や芸術に一生を捧げたその生き方は、美術に関わる者たちの心を揺さぶるだけではなく、文化、そして社会といった広範な領域にインパクトを与えました。
今日にいたるまで変わることのないゴッホからの影響を糧としながら、芸術家たちはそれぞれの時代にふさわしい新たな情熱を、どのように生成してきたのでしょうか。本展ではこのような歴史を振り返るとともに、現代を生きるわたしたちにとって「ゴッホ」がいかなる価値を持ち得るのかを検証します。
【同時開催】
「ライアン・ガンダー:ユー・コンプリート・ミー」
ライアン・ガンダー(1976年生まれ)は、英国サフォークを拠点に活動するアーティストです。絵画、彫刻、映像、テキスト、VRインスタレーションから建築、出版物や書体、儀式、パフォーマンスに至るまで、幅広く多元的な作品と実践を通して、ガンダーは芸術の枠組みやその意味を問い直しながら国際的な評価を確立してきました。また、自身の制作に加えて、展覧会のキュレーション、大学や美術機関での指導、また子どもたちを支援する活動にも熱心に取り組んでおり、数多くの書籍の執筆・編集、テレビ番組の制作・出演を通じて芸術や文化の普及にも携わるガンダーは、現代におけるアーティスト像を更新しています。
「一種のネオ・コンセプチュアルであり、特定の様式をもたないアマチュア哲学者」と自称するガンダーは、日常の中に潜む物語や多層的な意味を、知的な遊び心と鋭いユーモアを交えながら表現しています。その作品においては、不在や死、不可視、潜在性といったテーマが、現実と虚構が複雑に絡み合う中で展開されます。
人間の言葉を話すカエル、読めない時計や仮想の国旗、ある兄弟の偽りの歴史など、ガンダーの作品は極めて具体的でありながら、捉えどころのない神秘に満ちています。「アートの目的はコミュニケーションではなく、触媒として曖昧さを提供すること」と作家が語るように、作品の意味は固定されていません。鑑賞者の働きかけ―― 解釈と連想のプロセスによって、出会いのたびに新たな物語が創造されるのです。