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    ずら~り!文明交差は地球の歴史 ― 奈良国立博物館「世界探検の旅」
    奈良国立博物館 | 奈良県

    夏の朝、奈良公園では鹿も水辺で熱中症対策中です。関西万博期間で国宝級の展覧会が続くなか、今回の奈良国立博物館では何と初の“民族文化展”の開催です。


    奈良国立博物館は奈良公園の一角にあり、、神の使いの鹿がたくさん闊歩しています
    奈良国立博物館は奈良公園の一角にあり、神の使いの鹿がたくさん闊歩しています


    そして大きな見所は、「天理大学附属天理参考館」所蔵の超貴重なコレクションがふんだんに出品されていているという驚きの企画。かなり“みんぱく”風ではありますが、一部をご紹介いたします。

    第1章 文明の交差する世界

    まずは東西文明の誕生からそれぞれが影響を及ぼしながら交流するところから。紀元前2100年頃のシュメール王の彫像が貫禄のお出迎えです。


    グデア頭像 イラク、テロー 紀元前2100年頃
    グデア頭像 イラク、テロー 紀元前2100年頃


    国々の興亡はその繰り返しにより、楔形文字や甲骨文字、青銅器の緻密な模様など独自の言語や技術を発達させ、交流・交易することにより相互に影響を与えました。誰もが知る“シルクロード”での東西交易は東の終点正倉院の宝物にもみられるように日本へも伝播しました。文明の道は、海路陸路を問わず戦いの勝者だけでなく、母国を追われた難民による技術や信仰・精神性が当然受け継がれてゆくものになりました。


    ト甲 中国 殷耳時代
    ト甲 中国 殷耳時代


    モザイクガラス 東地中海地域 ローマ時代 このままアクセサリーになりそうなガラス器片
    モザイクガラス 東地中海地域 ローマ時代 このままアクセサリーになりそうなガラス器片


    勇者の威厳を示すような狩りのモチーフは硬貨やレリーフに残り、時空を超えて魅了するガラス製品などは華やかな文明の象徴のようです。広大な交易路をスムーズにした道路や駅伝制の整備などを示すものも伝わります。成吉思汗の掘り込みがあるプレートは通行許可証だったそうです。


    成吉思皇帝聖旨牌 モンゴル帝国時代
    成吉思皇帝聖旨牌 モンゴル帝国時代


    ところで皆様はシュリーマンという人物をご存知でしょうか? ギリシアやエーゲ海の島々で栄えたミケーネ文化を研究していたのですが、ギリシア神話のヘラクレス誕生の地とされるティリンス遺跡の発掘調査の報告書が存在していました。その原画19枚を所蔵するのが天理参考館で、今回そのうち3枚の資料を見ることができます。何とこれらにはシュリーマン直筆での報告書作成に関する指示が記載されていて必見です!


    ティリンス遺跡調査報告書原画 19世紀 シュリーーマン自筆の書き込み
    ティリンス遺跡調査報告書原画 19世紀 シュリーーマン自筆の書き込み


    第2章 神々と摩訶不思議な世界

    様々な民族を経由したということは神々への信仰も融合を見せてゆくことになります。特に儀礼や死生観は神秘的で複雑なものです。音楽、舞踊、演劇とも結びつき、祭礼や呪術となって今も精神文化を支えているのですが、そのような崇拝の視点から世界を巡ろうというコーナーが展開されています。


    精霊の仮面 パプアニューギニア地方 20世紀前半など 展示風景
    精霊の仮面 パプアニューギニア地方 20世紀前半など 展示風景


    現地にも、もう存在しないような巨大彫刻物や数々の仮面などを観ることができます。

    ジャワの王家が所有していたと特定できた影絵芝居ワヤン・クリットの人形は細密な透かし彫りが非常に美しい影を生み出しています。仮面やバリのチャロナランは芸能と結びつき、シャーマンを通じた呪術で祖先神を敬うなど少しずつ形は違えど、その死生観は大切に守られているのを感じます。形象化された“祈り”に吸い込まれてゆくようです。  


    葬儀用飾り貫「マランガン」やカヌー舳先飾り「チチェメン」展示風景 パプアニューギニア 20世紀前半
    葬儀用飾り貫「マランガン」やカヌー舳先飾り「チチェメン」展示風景 パプアニューギニア 20世紀前半


    影絵芝居ワヤン・クリットの人形など インドネシア、ジャワ島 19~20世紀前半
    影絵芝居ワヤン・クリットの人形など インドネシア、ジャワ島 19~20世紀前半


    人形彩画木棺 エジプト プトレマイオス朝時代 ミイラ被い エジプト ローマ時代エジプトのミイラ制作先進技術の素晴らしさ
    人形彩画木棺 エジプト プトレマイオス朝時代 ミイラ被い エジプト ローマ時代エジプトのミイラ制作先進技術の素晴らしさ


    第3章 追憶の20世紀

    ここでは今と比べてちょっと不便だった20世紀の生活を、なつかしく感じるもので世界を巡ることができます。北米先住民の守るカチーナ人形やイェイ文様などは初めて目にするものでした。最後のコーナーでは北京の看板が並んでいます。文字を書かない看板は(幌子ホァンツ)といい、いわゆる何の店かをわからせるものです。一目でわかるものから、ちょっと判じ物のものもありとてもユニークです。これらは現在の北京では見つけるのが難しいものになっているようで残念です。

    日本でもごく稀にこのような看板を見かけることがあり、古い町並みの名残を感じさせてくれる貴重なものとなってしまいました。この夏休み、こういう看板探しの自由研究はどうでしょうか?


    北京の看板展示風景 北京市 20世紀 何のお店かわかりますか
    北京の看板展示風景 北京市 20世紀 何のお店かわかりますか


    奈良国立博物館開館130年、天理大学創立100周年記念とのコラボ特別展はこれまでの感覚を越えた企画ではないかと思いました。空飛ぶタクシーまで登場する現代、らくだの隊列で自然に畏敬の念を示し、神々に祈りつつ砂漠を行き交ったはるか昔。結局人類は何も変わっていないのでは?と提示されたようです。時空を超えた世界探検の旅へ出かけるにはいいチャンスかもしれません。


    ユニークなミュージアムグッズ登
    ユニークなミュージアムグッズ登場


    中学生以下は無料です。万博とは違った世界探検の旅ができるのでは?グッズも冒険したものがありますし、ちょっと面白い写真が撮れるフォトブースもあります。静かに余韻に浸りたい方には、猿沢の池のほど近くの古風な路地には中川政七商店の奈良本店があります。和風小物の販売と喫茶もありますので酷暑の疲れをとるにはお勧めです。  

    [ 取材・撮影・文:ひろりん / 2025年7月25日 ]


    会場
    奈良国立博物館 東・西新館
    会期
    2025年7月26日(土)〜9月23日(火・祝)
    開催中[あと34日]
    開館時間
    午前9時30分~午後5時
    ※入館は閉館の30分前まで
    休館日
    8月25日(月)、9月1日(月)、9月8日(月)、9月16日(火)
    住所
    〒630-8213 奈良県奈良市登大路町50番地
    電話 050-5542-8600(ハローダイヤル)
    050-5542-8600 (ハローダイヤル)
    公式サイト https://art.nikkei.com/tanken/
    料金
    当日
    一般 1,800円
    高大生 1,300円

    前売・団体
    一般 1,600円
    高大生 1,100円

    団体は20名以上。
    展覧会詳細 「世界探検の旅 ― 美と驚異の遺産 ―」 詳細情報
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