彼の優しい性格をそのまま映しだした絵は、虫や草花や仏さまをカラフルな色遣いで大胆に表現し、思わず見るひとの心を温かく包みこみ、親しみを誘わずにはおれません。
彼の絵の特筆すべき点は、目に視える対象物を抽象的に形象化する独特のセンスです。大人がとうの昔に失ってしまった曇りのないおおらかな感性と、意表をつくユニークなアイデア、そして天性の自在で豊かな色彩感覚。そして生命に対する素直な喜びと、周囲のあらゆるものに対する感謝の気持ちを紡ぎだしているのです。
「NHKスペシャル・脳と心 II 」 や 「徹子の部屋」 などのテレビ出演で、彼の優しい人柄が広く紹介されたこともあって、彼の絵は徐々に多くのファンを得、中学校の美術の教科書に作品が採りあげられるまでになりました。
また、2002年3月には富士五湖のひとつ山中湖の湖畔に美術館を兼ねた 「岩下哲士アトリエ館」 が開館し、現在は自宅とアトリエ館を行き来しながら、自然に恵まれた環境のもとで製作活動を続けています。
今回の展観は、岩下哲士の芸術の全貌を、幼少時から最新作まで網羅する初めての大規模な個展です。絵画作品のほか、遊び心いっぱいの陶芸などの立体作品や、彼の人間性を感じさせる未公開の資料を併せて展示いたします。
本展を通して、岩下哲士の病魔に負けない強い意志の表現、生命の不可思議と人間の可能性の偉大さ、魂の躍動する心地良いぬくもりを感じていただければ幸いです。