大久保英治氏は、西宮市に生まれ、幼少の頃を岡山県の矢掛町で過ごしました。80年代にイギリスに渡り、大地そのものを美術の素材とする「ランドアート」とか「アースワーク」と称される現代美術の表現に取り組み、今日、その活躍の場は、世界的な規模で年々広がりつつあります。海岸や野山、渓流などといった自然の中に直接身を置き、その中を歩き、そこで見捨てられたり、置き忘れたような自然の断片を拾い集め、それら自然の要素や素材をそのまま生かした創作活動を展開してきています。それは、自然の中に身を置いて、そこで得られた一つ一つの要素を大事に拾い上げ、集積させた、痕跡のようでもあります。それは、私たち日本人が本来持つ自然観や生活文化様式を意識しつつ、それに根ざした独自性の強い作風を目指し、確立させています。近年では、東アジアを出発点とし、アジア各地で現場制作し、地域の交流をはかろうとする「ユーラシア・アートプロジェクト」に取り組むなど、その精力的で旺盛な活躍ぶりはますます国際的に広範囲に渡り注目を集めています。
この展覧会は、1999年以降、大久保氏の重要な活動拠点となっている鳥取県と、幼少の頃を過ごした岡山県という本来、ボーダレスな場所(サイト)と地域(エリア)の繋がり、特性を生かし、それぞれの環境や気候、風土を取り込みながら現場制作した最新作のインスタレーション作品を、鳥取県智頭町の石谷家住宅をスタートに、岡山県の奈義町現代美術館、津山市の衆楽園、岡山市のすろおが463の各施設、場所に制作していき、この作品世界の広がりと、現実の地域の姿を重ね合わせてみていただくことが、美術と地域文化との関わりや、あり方を見つめ直すきっかけになれば幸いです。