まず風景画では、葛飾北斎の<冨嶽三十六景>や歌川広重の<東海道五十三次>等に見られる湘南風景、すなわち東は戸塚・江の島から西は大磯・小田原、さらには富士山の景観で著名な伊豆や箱根、そして大山などを描いたものをメインとし、いっぽう人物画では、当地と密接なつながりをもつ大岡越前守や南郷力丸にまつわる芝居絵や、かつて茅ヶ崎に在住した市川団十郎との関連で役者絵が中心です。
また作者は、前記の北斎と広重のほか、北尾重政、鳥居清長、勝川春亭、歌川豊国(三代)、歌川国貞、渓斎英泉、歌川国芳、河鍋暁斎、豊原国周、月岡芳年等々という、わが国の浮世絵を代表する作家たちの名品が目白押しです。これらを一堂に会することで、そこに表現された江戸時代の湘南の歴史的風土や風俗を、市民をはじめ多くの人びとに鑑賞していただこうというものです。
出品作品の総数は107点。それらを〈北斎・広重の東海道〉〈大山〉〈南湖の左富士〉〈馬入の渡し〉〈ゆかりの人物〉ほか9つのコーナーに分けて展観いたします。展覧会の期間は合計七週間。変色しやすい顔料を用いた木版刷りという浮世絵独特の脆弱な材質のため、会期中は毎週のように展示替えをおこないますので、是非とも希望する作品の展示期間をご確認のうえ、ご観覧いただければ幸いです。
なお、今回の企画では美術館エントランスホールに伊能忠敬(1745-1818)による『大日本沿海輿地全図』(いわゆる「伊能図」)の大図(模写)の湘南部分を参考展示します。そのうえをゆっくり歩きながら地理的な認識を深め、浮世絵に描かれた湘南の歴史的景観を味わっていただきたいと思います。