人類の歴史がはじまって以来、東洋と西洋を問わず、造形作品を創造する者も鑑賞する者も、そこに何か<聖なるもの>を求めてきました。時代の変化とともに<聖なるもの>はさまざまに姿を変えましたが、その変化を持続させてゆこうとする創造力こそが、人間を現代まで発展させた原動力だったと思えるのです。
当館は20世紀以後の現代美術を展示する美術館ですが、本展では、今年国の重要文化財に指定された所蔵の『厨子入木造大黒天立像』を特別展示します。元来シヴァ神が変身した忿怒の姿としての大黒天は<偉大なる黒いもの/すべてを消滅させる大時間>という意味をもっていました。他方で豊饒の神としての優しい面も有し、日本への伝来以後は、次第に頭巾と狩衣姿に大きな袋を背負った福神として、大黒と同音の土地神、農業神でもあった大国主命(オオクヌヌシノミコト)と同化されてゆきました。伝教大師が招来したと言われる時代から約500年後の本像は、<聖なるもの>が時代とともに姿かたちを変えていった典型的な例と考えられるのです。
現代美術に<聖なるもの>がなお生き続けているとすれば、それは芸術家自身の創造力の深度、芸術家を歴史として支える文化の深度以外にはないでしょう。そして時には、創造力の深度は幅という異質に変化し<俗なるもの>として現れることもあるでしょう。南北朝時代の『大黒天立像』を『現代美術・再読』のための歴史的背景として用意した本展で、現代美術の多様な世界を鑑賞していただきたいと思います。