拵とは、刀身を保護し実用するための外装全体である刀装のことをいい、日本では古来よりその実用性のみならず、美しさもまた追及されながら、独自に発展してきました。特に太平の世といわれた江戸時代においては、多彩な装飾が求められるようになり、美術品としての価値が高まったと言えます。幕末になると将軍家に代々仕えた刀装金工の後藤家においても従前の地味な伝統的な意匠の作品だけでなく、新しい感覚の作品も作られるようになりました。またその頃、大名家以上に財力を持った豪商達も現れ、彼らが金に糸目をつけずに作られた素晴らしい作品も残されています。
拵は、柄、鞘、頭、目貫、縁、鐔、小柄、笄などの部分から構成され、そこには、金工のみならず、木工、漆塗り、蒔絵、皮革、組紐、染織などさまざまな工芸技術の枠が結集されています。また、花鳥風月や歴史・事故などを題材としたものが多く、全体として装飾的なつりあいがとれた構図の中で、あらゆる装具がぴったりと調和しているものが望まれました。刀装具の魅力の多くは、こういった調和や手の込んだ精細な装飾、そして刀装具の構成そのものにあり、当時の大衆文化における、あらゆる気品やユーモア、人間味が見られるカンバスでもあるのです。
幕藩体制が崩壊し、明治9年(1876年)に廃刀令が出された後も既に美術品化していた刀装具は作り続けました。後藤一乗、加納夏雄、萩谷勝平、正阿弥勝義、海野勝珉、天光堂秀国、篠山篤興、等々の優れた刀装金工やその弟子たちは明治に入ってもなお芸術性の高い、新しい感覚の作品を作り続けました。
幕末・明治という時代を生きた刀装金工や漆工達が、短刀拵という枠の中で具現化してみせた森羅万象を、めを凝らしてじっくりご鑑賞下さい。