日本では古来、木を神として崇め、また心の拠りどころとして暮らしてきました。森は大地そのものであり、大地は地球そのもの─この地球を人類にとっての地母神(ガイア)として捉えれば、人間、植物、動物、すべての生命が織りなす関係性を考え、森羅万象の成立を尋ねることは今私たちが直面している課題のひとつといえるでしょう。
本展の第一部【光ヲ思フ】では、すべての命の源となる光について「この宇宙で最も深遠な真実」と記したアメリカの写真家ウィン・バロック(米、1902-75)の森の神秘と静誰なエネルギーを讃えるモノクロ作品を展示します。
第二部【水ヲ思フ】では、志鎌猛(1948)の作品を展示いたします。八ヶ岳麓の森に15年をかけて自宅を建てながら森に惹かれて行き、湿潤な国内の森を求道者のように大型カメラで撮影している志鎌。生き物の気配をかすかに漂わせ、時には光の届かない闇を境界として人間を拒み、みずみずしい浄化力を湛える森の姿。作品は、木と水のみで作られる手漉きの雁皮紙を使用し、古典技法のプラチナプリントで制作されています。
第三部は"森の報道写真家"宮崎学(l949)による【命ヲ思フ】。独自に開発したロボットカメラを駆使し、動物の目線に立って人間社会と動物の生態を見つめてきた宮崎。動物の死に始まる命の循環とはどういうものなのか─森の中に巡る命を、未発表の新作を含めて見つめていきます。
本展では3人の写真作品約100点と同時に、1977年屋久島に居を構え、森について多くの著作を残した詩人・山尾三省の言葉を展示します。名峰八ヶ岳の南麓に位置し、森に囲まれた清里フォトアートミュージアム。この森から発信する写真と言葉が、あらためて【森ヲ思フ】機会となれば幸いです。