「倚(よ)りかからず」「自分の感受性くらい」「わたしが一番きれいだったとき」などの詩で今なお多くのファンに愛される詩人茨木のり子の没10周年にあたり、特別展を開催します。
茨木のり子(本名・三浦のり子/旧姓宮崎)は、大正15年(1926)に大阪で生まれ、6歳の時に医師である父の転勤によって愛知県幡豆郡西尾町(現西尾市)へ移り住みました。西尾尋常小学校5年生のときに日中戦争が勃発、県立西尾高等女学校では良妻賢母教育と軍国主義教育を一身に浴び、東京の帝国女子医学・薬学・理学専門学校(現東邦大学)に進学するも、戦況の悪化から空襲と飢えに翻弄され、学徒動員された軍需工場で敗戦の日を迎えました。
戦後、あらゆる価値観が逆転するのを目の当たりにしたことでのり子自身も文学の道への転換を決意し、結婚後の24歳で詩作活動を開始すると、川崎洋(ひろし)と同人詩誌「櫂(かい)」を創刊し、谷川俊太郎、岸田衿子、大岡信(まこと)らともに詩壇を牽引して「現代詩の長女」と称されました。
凛とした自立の姿勢や社会に対する鋭い批評眼、それでいて優しさとユーモアにも溢れた詩は、多くの読者の心を捉え、詩集『倚りかからず』は詩集として異例のヒットを記録し、いくつかの作品は教科書にも掲載されています。また、「花の名」「お休みどころ」など、故郷西尾に関する詩も少なくありません。
本展では、こうした茨木のり子の詩の世界を改めてご紹介するとともに、少女時代を過ごした西尾での足跡や、父洪が宮崎医院を開業した吉良町吉田の人々との交流のようすについてもご覧いただきます。