山口蓬春(1893-1971)は東京美術学校日本画科に在籍中、日本の伝統的な絵画であるやまと絵を追究するために、朝廷や公家、武家の昔からの儀式や風俗、服飾などに関するきまりごとである有職故実(ゆうそくこじつ)を習得しました。画伯は数多くの古画に接し模写することにととまらず、実際に時代装束をつくり、なお自身で着用して写真に記録するなど、その研究は特筆すべきものです。
戦後まもなく、画伯は土佐派による近世の風俗図を入手します。この画帖を初めて目にしたときの感激を次のように述べています。
「繪画的な価値もさることながら、日本の近世風俗の資料としては大變貴重なものなので感心して眺めていた」「なんとか保護してやらなければという氣持で買った。當時の私としては無理算段の買物であった」(「『十二ヶ月圖帖』によせて」『藝術新潮』6月号、1957年)
武家装束をはじめ、女房たちの雅な姿、祭礼を担う町衆たちの服飾表現が仔細に描きこまれた《十二ヶ月風俗図》は、それから十数年後に重要文化財の指定を受けます。若き日々に培った歴史風俗への深い造詣があったからこそ、その値打ちをすぐさま見抜くことができたのです。
本展では蓬春コレクションより重要文化財《十二ヶ月風俗図》をはじめ、画伯が描いた王朝装束や古典文学をテーマにした日本画、参考資料として入手した古画等をご紹介いたします。さらに憧れの画家でもあった吉川霊華、鏑木清方らの多様な風俗表現をもご覧いただきます。