津和野に生まれ幼少期を過ごした安野光雅さんは、その里山の風景を大切にしたような優しい色合いと細かな描写で多くの子供たちへの絵本を描きました。戦後、代用教員や美術教師として生徒たちとふれあうかたわら、本の装丁などを通じ絵本作家としての道を進みました。教材の少なかった時代は様々な方法を考えて授業をされたようです。

プロローグ

ふしぎな学校は雀の学校?
“ふしぎな学校”? どんな授業が待っているのでしょうか? 今回の展示は授業科目を章立てとしていて、館内がまるで学校のような空間になっていました。木目調の廊下には「走らない」の注意書きも! 朝のはじまりから終礼そして自由研究まで、小学校の1日を思い出しながら観覧します。こくご、さんすう、りか、しゃかい、えいご、ずこう、おんがくなど各科目にちなんだ安野先生の作品がセレクトされています。

会場は学校のよう

授業科目の章立になっています
始めに目にした(いろはかるたの切り絵)の美しさにまず脱帽。黙々と丁寧に切り絵に取り組む安野先生の姿が思い浮かびます。

こくごの時間には、アンデルセン童話の挿絵と切り絵が並んでいます。挿絵の方だけをたどると童話のお話。切り絵はその場面に合わせたようなもうひとつのお話が出来上がります。組み合わせは自由な考えを生み出します。

「光の国」『かげぼうし』より 1976年 ©空想工房 画像提供:津和野町立安野光雅美術館

「光の国」『かげぼうし』より 1976年 ©空想工房 画像提供:津和野町立安野光雅美術館
さんすうの時間は数をかぞえます。でもそれだけではありません。

「ふしぎなのり」『はじめてであうすうがくの絵本1』より 1982年 ©空想工房 画像提供:津和野町立安野光雅美術館
えいごの時間はイソップ童話。その物語は2種類です。そう、“あんのイソップ”が展開しています。読み取り方は人それぞれ。〇×なんてありません。

イソップ童話も二通りのお話が展開
「おおきなもののすきなおうさま」では王様の奇想天外をユーモアあふれるアイデアで家臣たちは望みをかなえてくれます。でも最後におおきな植木鉢にポツンと咲く小さなチューリップを見て何を感じるでしょうか?

大きなものが大好きな王様のお話

『おおきな ものの すきな おうさま』より 1976年 ©空想工房 画像提供:津和野町立安野光雅美術
こんな風に各授業では、正解のない課題をみて、考えることの大切さや発見する喜びを繰り返すことによる学びを教えているのでしょう。私も熱中できそうな「もりのえほん」には森の木々に隠れる動物たちを探すことの楽しさが溢れ、必死です。

地球の話だってわかりやすい
最後には自由研究として安野さんの交流の広さをうかがわせる作品が並びます。井上ひさし氏の戯曲ポスターです。そこに並ぶ役者陣もとてもなつかしく舞台好きな私にはその人の声が聞こえてくるようでした。

自由研究のコーナーには戯曲のポスターも
そして、上の句を安野さん、下の句は歌人による“片想い百人一首”という書で締めくくられていました。あたたかい文字も絵に見えてくるほどです。

片想い百人一首
安野光雅氏の作品は『ふしぎなえ』『ABCの本』『旅の絵本』などに収録の細かい表現と海外の風景などが印象深いのですが、今回の展覧会のように幼い子供たちがはじめに目にする絵からどのように感じ、考え、空想することが何よりも“学び・教え”になるということを再確認させてくれる視点に改めて感じるものがありました。
・題名をみて絵を見るのではなく文字がなくても絵本になる。
・妄想と空想は違う。
安野氏の著書で読んだ言葉を思い出しながら、柔らかアタマと思考力で毎日を過ごさなければと思いましたが皆様はどうお考えになるでしょうか?
美術館「えき」KYOTOは、京都駅直結の伊勢丹の7Fにあります。ターミナルの喧騒とは別世界を味わえる空間では多彩なジャンルの展覧会が企画されます。電車の時間を少しずらしてふっと飛び込んでみるのもお勧めです。今回は会場の外にも映像やプロフィールが掲げられ、天国の安野先生に質問できるコーナーもありました。

手元に置きたい綺麗な装丁の図録

代表作も買えます

賑わう京都駅周辺
ふしぎな学校を体験した私はまたいつもの通り甘味を注入しながら余韻の時間を過ごすのでした。今日は伊勢丹の並びの「中村藤吉京都駅店」で生茶ゼリイをいただきました。

宇治お老舗 中村藤吉 やっぱり抹茶味がいい
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2022年2月24日 ]
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