「現代アートはわからんね」。この仕事をしていても、しばしば聞かれる言葉です。ウェブや本などで目にする機会は増えたものの、何が良いのか、どこが美しいのか。現代アートが理解できずに敬遠している方も多いと思います。
日本を代表する現代アートコレクションを作った田口弘さんも、そのひとりでした。現代アートとまったく縁のなかった昭和のビジネスマンが、いかに引き込まれていったのか。その軌跡を追いながら、現代アートの魅力を紹介する展覧会が、角川武蔵野ミュージアムで開催中です。

特徴的な外観の角川武蔵野ミュージアム。デザイン監修は隈研吾
メインの会場は1Fのグランドギャラリーです。入口から入ると長い通路を歩き、最終的にはほぼ真っ暗。その先に、作品が登場します。
現代アートの展覧会は、白一色の「ホワイトキューブ」の空間が多いのですが、本展は真逆の「ブラックキューブ」。暗闇に作品と解説の文字が浮かび上がるドラマチックな会場は、見どころのひとつです。
田口弘さんと現代アートの出会いは、キース・ヘリングから。新橋にあったブティックのショーウインドーに掛けられていたヘリングの作品に衝撃を受け、収集をはじめました。
コレクションが拡大する中で重要なのが、助言をしてくれる存在です。タグコレには、塩原将志さんが長年アドバイザーをつとめています。

角川武蔵野ミュージアム「タグコレ 現代アートはわからんね」会場
タグコレは時代を経るにつれ、その内容も、さらに国際的に、さらに幅広くと、少しずつ変化しています。その変化は、アートの世界そのものの変化でもあります。
アド・ミノリーティは、フェミニズムやジェンダー・クィア理論に関心を持つ作家です。イギリスの展覧会で、立体像が掛けられた絵を眺めているような配置で展示されていたため、本展でもその見せ方に倣っています。
タグコレは「この作品を持っている」と自慢するのが目的ではありません。どのように見せるか、にも重点をおいています。

角川武蔵野ミュージアム「タグコレ 現代アートはわからんね」会場 (左から)アド・ミノリーティ《フォクシー》2019 Courtesy Peres Projects / アド・ミノリーティ《キティ》2019 Courtesy Peres Projects
アートのコレクションは、富裕層による自身の楽しみ、権力者の自己顕示、あるいは投機目的など、さまざまな理由がありますが、タグコレは開かれたコレクションを目指しています。美術館などにも積極的に作品を貸し出し、現代アートの魅力を多くの人に伝えたいと、考えています。
宮島達男の「Floating Time」は、2020年の千葉市美術館での個展を見て購入を決めたもの。見る人に数字が映り込み、自分が作品の中に入り、一期一会の出会いが生まれることをおもしろく感じた(田口美和さん)といいます。

角川武蔵野ミュージアム「タグコレ 現代アートはわからんね」会場 (奥から)宮島達男《Floating Time V2-11-Sky Blue》2000 / 宮島達男《Floating Time / V2-02-Yellow-Shanghai》2000 / 宮島達男《Floating Time V2-10-Pink》2000
展覧会はグランドギャラリー以外でも展開されています。ギャラリー前や階段の壁面、2Fのエントランスロビー、外壁など、各所に作品が展示されています。
書籍が並ぶ4F エディットタウン ― ブックストリートには映像作品があります。田名網敬一はデザイン、絵画、彫刻、アニメーションなど実験的な作品を60年以上にわたって発表し続けています(4Fスタンダードエリアへの入場は、別途チケットが必要です)。

角川武蔵野ミュージアム「タグコレ 現代アートはわからんね」会場 田名網敬一《Crayon Angel》1975
本展最大のポイントが、ひとつひとつの作品に対して掲げられている文章です。田口弘さん、美和さん、塩原さんが、その作品に対する思いや購入の経緯などを語っており、無機質な作品解説とは異なり、鑑賞する側が素直に腹落ちできる仕組みになっています。
現代アートファンはもちろんですが、敬遠している方にこそ見ていただきたい展覧会です。スタイリッシュな展示空間は、デートにもピッタリだと思います。多くの作品は撮影も可能です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年2月2日 ]