色が切り口の本展、会場には色に関連する楽しいエピソードが紹介されています。
会場冒頭は、印象派以前の時代から。現在の感覚からすると不思議に思えますが、17世紀の画家は絵を描く前に、まず絵の具を作る必要がありました。
色の材料は、時代によって異なります。例えば、レンブラントが描いたこの絵には、黄色に鉛と錫を化合した「レッド・チンイエロー」が使われていますが、この黄色はこの時代特有のもの。アングルが活躍する時代には、使われなくなりました。
レンブラント・ファン・レイン《聖書あるいは物語に取材した夜の情景》と、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《若い女の頭部》印象派の展示では、青色の影についてご紹介。
ブリヂストン美術館の看板娘、ジョルジェット・シャルパンティエ嬢は、よく見ると暗部が青い線で描かれている事が分かります。「影は黒」と思われていた時代、このような印象派の表現は強く批判されました。
ただ、明るい絵の具を大胆に使った印象派は「黒をパレットから追い出した」といわれますが、実は印象派の作品には黒い服の人物がよく登場します。これは当時のファッションの流行から。黒や灰色のシルクハットや燕尾服など、モノトーンが好まれた時代だったのです。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢》、エドガー・ドガ《レオポール・ルヴェールの肖像》白と黒の幻想的な作品で知られる、オディロン・ルドン。近年、
ブリヂストン美術館のコレクションにリトグラフ集『夢想』が加わりました。副題のアルマン・クラヴォーは、若き日のルドンが出会った植物学者で、ルドンの作風に大きな影響を与えた人物です。
ルドンのリトグラフ集『夢想(わが友アルマン・クラヴォーの想い出に)』など本展の最大の見どころは、カラフルなマティスの挿絵本『ジャズ』。版画20点が一堂に揃う展示室9はとても華やかです。切り紙絵の原画をカラー印刷した作品で、マティスは印刷の再現性にこだわり、切り紙絵で使われているのと同じグワッシュを使ったステンシルで印刷しました。
目玉作品の前で、本展担当学芸員の賀川恭子さんに見どころをお話しいただきました。
ブリヂストン美術館学芸員の賀川恭子さん
第10室では、本年4月に92歳で死去したザオ・ウーキー氏の追悼展も開かれています。
色彩を空間に解き放つような作品で知られるザオ・ウーキー氏。1994年に第6回高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)を受賞するなど、国際的にも高い評価を得ていました。
ブリヂストン美術館では2004年に「ザオ・ウーキー展」を開催し、現在では18作品を所蔵しています。
追悼展では厳選した9作品を紹介。人気が高い《07.06.85》も展示されていて、この絵の前で瞑想するようにじっと絵を見つめるお客様がよくいらっしゃるそうです。
「追悼 ザオ・ウーキー」の会場 ©Zao Wou-kiこの作品の青色は、どうも印刷物やウェブでは伝わりません。眩さと重さが混在しているような青色で、凝視すると目の裏側に焼きつくような気がしてきます。ぜひ会場でご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年6月26日 ] | | アンリ・マティス ジャズ
Katrin Wiethege (原著), 長門 佐季 (翻訳), カトリン ヴィーテゲ 岩波書店 ¥ 2,940 |