《スピリット》2013年 肖像がプリントされた布、ソケット、電球 作家蔵
どこに迷い込んでしまったのか…。
この世ではない何処かにいます。不安と好奇心が入り交じります。
国立国際美術館、国立新美術館、長崎県美術館の3館共同企画の大規模な『クリスチャン・ボルタンスキー —Lifetime』展が今年、国内を巡回します。
大きな特徴は、自らを「空間のアーティスト」というボルタンスキー自身がそれぞれの会場に合わせたインスタレーションを手掛けることです。
初期の作品から最新作までを紹介しながらも、展覧会が1つの作品のようになるというのです。
会場風景
会場風景
青い光で形作られた《出発》。何かが始まると予感させてくれます。
響く《心臓音》と、鼓動に合わせて明滅する電球。その先には人の顔が映し出された紐状のカーテンが吊られています。
カーテンに映る像は7歳から65歳までのボルタンスキーです。
そして体に振動する大きな心臓音は、ボルタルスキーのもの。
彼の体内へ入り込んでいくかのようで、少々緊張しながらカーテンを通り抜けました。
会場風景
ボルタンスキーは、歴史や記憶、そして死や不在をテーマに、世界中で作品を発表しています。
そして本展でも、彼の実体験や思考、疑問をもとに「生」「死」を表現しています。
ボルタンスキーは、観るだけではなく、作品に入り込み、それぞれの実体験を通して自分自身に問いかけてほしいと話します。
多くの人たちの顔写真や古着、風鈴の音は、ナチスや世界大戦を彷彿させます。
子どもたちの写真は、最近の小学4年生が虐待で亡くなったニュースを思い起させました。
地震や津波の災害、または身近な人の死を思い出す人もいるでしょう。
過去や現在の記憶、そしてこれから起こり得る未来の現象。
それらすべて総動員させて作品に集中しますが、時代、国境を超えたテーマは、大きく、一度では消化できません。
「展覧会を見たから、答えが見つかるわけではない」とボルタンスキーは、いいます。
「人生は疑問だらけ。真偽に到達する最後の扉をあけるカギを探し続けることが人間らしい営みである」。
何度も展覧会に足を運び、じっくり向き合いたい。そんな気持ちになります。
最後の部屋には赤いサインの作品《到着》が待っていました。
入口の《出発》と対になっており、人生には始まりと終わりがあるというボルタンスキーの哲学を表現しています。
最後に私たちは、来世にたどり着いたということでしょうか。
実は、出口がわからず、少し戸惑っていた時に見えた「ARRIVEE(到着)」のサインは、現世に戻ってきたかのような安堵感を与えてくれました。
「死」ではなく「生」にしか意識が向いていない、そんな自分が無意識にでたような気もします。
クリスチャン・ボルタンスキー氏
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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