2001年9月11日のニューヨークの事件、起るはずのなかったあの出来事が世界中のメディアを流れた瞬間、それまでの思想や概念は音を立てて崩れていった。
前作から5年、今回の『エンプティ・ガーデン2展』では、この都市という恐ろしいエネルギーの集積地で、「なくてはならない場所」が重要なテーマとなる。人々の喜びとともに、そこには哀しみがあふれ、さらには深い祈りが棲む。忘れ去られた身体感覚が蘇り、物語の未来が語られる。
結局そこには、一見何もなくなった「グラウンド・ゼロ(爆心地)」のような場所なのかもしれない。
出品作家のひとり、異色の遊行僧であり17世紀の現代アーティスト、円空[1632-1695]。荒々しく彫られ、ダイナミックな表情の円空仏には、生への強いエネルギーと大地への祈りが込められている。
スイス出身の二人組みアーティスト、ゲルダ・シュタイナー(1967年ルツェルン生まれ)とヨルク・レンツリンガー(1964年チューリッヒ生まれ)は、「ウエール・バランス」と題された、不思議な庭を創る。人工的な物、自然の植物、特別な装置、壁画などが組み合わされ大きな庭になる。精霊は雨粒のように降り注ぎ、息をのむ。
フランスに住む韓国人作家クー・ジュンガ(1976年ソウル生まれ)の作品は、この「エンプティ・ガーデン」を駆け抜ける風である。世界の終わりが、もうそこに見え隠れしているというのに、その風は吹き。河が流れ、空気はさらに澄んでいく。
ロンドンに住むイアン・ケア(1971年英国生まれ)は複数の小さなオブジェ(建築模型、水彩画、ファウンド・オブジェ)によって構成され、さまざまな場面での人間の物語をリアルな感触を含んで表す。
写真家トーマス・フレヒトナー(1961年スイス生まれ)は、「スパイスガーデン」という南インド、ケララで撮られた香料畑の連作写真をプロジェクションという手法で展示する。
こうして、殺風景で誰もいなかった空地には、アーティストたちのそれぞれのランドスケープが広がっていった。