「ちらし書き」とは、文字通り、紙面に文字を散らして書く技巧的な手法。縦書きの数文字で構成された行を、長さや行間の調整をしながら、また行頭の高さを自在に変化させながら美的にレイアウトする技法です。その始まりは、日本が独自の美意識を示しはじめた平安時代初期。早くも、かな書の誕生期に生まれています。そして筆線の流麗美が求められつつ、「ちらし書き」の世界は人々を魅了し、次第に広まってゆきました。
中でも<三色紙>の呼称で親しまれ、広く愛されている「経色紙」「寸松庵色紙」「升色紙」は、それぞれが異なるちらし方を極めた名筆中の名筆であり、その技法を美意識は今日まで受け継がれています。
そののち鎌倉時代に入ると、「ちらし書き」は定型的な書式となって定着を見せ始めましたが、やがて桃山時代を迎える頃、より斬新で質の高いデザイン力を発揮した近衛信尹、本阿弥光悦らの手によって新たにダイナミックなちらし書き作品が確立を見ました。
こうした歴史的な展開にみる様々な技法は、ついで近現代の書家たちへも多大な影響を与えました。彼らはそれまでの手法を複合して用いることにより、視覚芸術性の高い作品制作へと発展させていったのでした。そしてその一端は、私たちが日常見るような文字をあしらったデザインにまで波及し、息づいています。