印象主義をはじめとするヨーロッパ近代の美術は、フランスを中心に語られることがほとんどです。フランスに国境を接する隣国ベルギーは、フランスに劣らず、ヨーロッパ美術に大きな影響を与えた個性的な作家を数多く輩出したにもかかわらず、あまり広く知られているとは言えないようです。
たしかに、それまでのヨーロッパ美術の通念を打ち破ったフランス印象主義は、ベルギーの美術にも大きな影響を与えました。しかし、ベルギー美術の魅力は、単に影響を受けるだけにとどまらないところにあります。たとえば、ジェームズ・アンソールは、はじめ印象主義の影響を受けながらも、後にその影響を離れ、強い色彩で幻想的な世界を描きました。また、スメット兄弟やファン・デン・ベルヘのように、ダイナミックな表現主義的傾向を示す画家も存在しました。さらに、マグリットやデルヴォーらは独特な世界観を持つシュルレアリスム運動を展開し、美術の世界的動向の一翼を担いました。
本展は、このような近代ベルギー美術の表現の変遷を、ドイツ人コレクターハインリヒ・サイモン氏のコレクションにより俯瞰的に紹介しようとするものです。同氏のコレクションはエミール・クラウス、ジェームズ・アンソール、レオン・スピリアールト、ルネ・マグリット、ポール・デルヴォー、ピエール・アレシンスキーなど1880年代後半から1970年代までのベルギー近代美術史の主要な作家を網羅するものとして、2003年から2004年にかけてベルギー(イクセル美術館、ブリュッセル)とオランダ(シンガー・ラーレン美術館、ラーレン)で公開され、高い評価を得ています。
今回は、日本で同コレクションを紹介する初めての機会です。フランスを中心に語られることの多いこの時代の美術を、デルヴォーやマグリットらシュルレアリスムの巨匠の傑作をはじめ、ベルギー近アヂ美術の精粋というにふさわしい作品群で捉える、非常によい機会であるということができます。