アメリカ・インディアンの一部族であるナバホ族は、自らをDine(ディネ=土地の人々)と呼びます。アメリカ・インディアンといえば北アメリカ先住民ですが、17世紀から19世紀末にかけて、新しく渡来してきた白人との攻防戦の末、「枯れ葉のように」散り、絶滅の危機に陥った感があります。
19世紀末には、現在のアメリカ合衆国のほぼ全土が白人のものとなり、ナバホ族は今のアリゾナ州(一部ニューメキシコ、ユタ州にまたがる)のインディアン・リザベーション(居留区)に移住を余儀なくされました。半砂漠の不毛の地で独自の伝統文化を捨て、アメリカ社会に同化するよう強いられましたが、彼らは伝統のナバホ織りの技術を守り発展させてきました。
当美術館では、今回の企画展で、ディネの人々の誇りであり、欧米社会でも高い評価を受けているナバホ・ラグ(敷物)として織られるようになりましたが、ナバホ・ラグはもともと、人々の着衣や馬の鞍の役目を果たしたものです。
果てしなく広がる半砂漠の母なる大地、メサと呼ばれる岩山、見渡す限りの父なる空、雷、祈り、踊り等ディネの人々の生活すべてが、そのパターンとして凝縮された作品は力強くダイナミックで、見る人の心をつかむことでしょう。同時に、ラグの向こうにかつて「我々は滅びゆく種族である」と叫んだ人々の生命力を感じ取っていただければ幸いです。鉄道が敷かれ、汽車が走るのを見て目をみはり「鉄の馬」と読んでラグに織り込んだ人々の子孫が、今や飛行機で日本を訪問する時代となりました。これを機に、白人の目線でつくられた西部劇の中のインディアンではなく、敗戦後の苦境を果敢に切り抜けてきた日本人の目線で改めて、ディネの人々に関心を寄せていただければ、この企画展の意義はなお一層深まるものと考えております。