大阪城のお膝元に位置する大阪歴史博物館にて、特別展「正倉院 THE SHOW ー感じる。いま、ここにある奇跡ー」が始まりました。
正倉院宝物は、発掘・発見された文物ではなく、奈良時代から現代にいたるまで悠久の時を経て地上に存在し、人々が守り続けている稀有な宝物です。本展では、従来の実物鑑賞とは異なるアプローチで作品の魅力に迫るユニークな展覧会を体験できます。

大阪歴史博物館外観

正倉院 THE SHOW
奈良・東大寺旧境内に立つ「正倉院」(国宝)は、聖武天皇のご冥福を願い、光明皇后が御遺愛品などを東大寺の大仏様に奉献されたことが、正倉院宝物のはじまりであり、1300年にわたり約9000点もの宝物を地上で守り伝えています。
本展の大きな魅力をふたつに絞って紹介します。
ひとつ目の魅力:
毎秋開催される「正倉院展」には、会期17日間に10万人から20万人が来場します。 そこで経験する『もっと近づいて細かいところまでじっくり見たいけれど…』というモヤモヤ感を、宮内庁正倉院事務所による類まれな出来映えの再現模造たちが見事に解消してくれます。
STAGE 01 奇跡のはじまり
「国家珍宝帳」に記載されている聖武天皇の持ち物に相応しい格調高い豪華な肘おき。

≪再現模造 紫地鳳形錦御軾≫(むらさきじおおとりがたにしきのおんしょく)
STAGE 02 全身で感じる
聖武天皇がその膝に抱いたとされる名品。

≪再現模造 螺鈿紫檀五絃琵琶≫ (らでんしたんのごげんびわ)

≪再現模造 紅牙撥熮鏤尺≫(こうげばちるのしゃく)
この美しい丸箱の中に何が納めされていたのか会場でご覧ください。

≪再現模造 螺鈿箱≫

≪レプリカ 瑠璃坏(るりのつき)≫
[螺鈿紫檀五絃琵琶]
STAGE 03 壮大な物語

「大仏開眼会」
大仏に眼を入れるのに用いられた大型の筆。

≪再現模造 天平宝物筆≫

≪再現模造 酔胡王面≫ (すいこおうめん)
正倉院宝庫は天皇の許可なしには開くことができません。年に一度だけ天皇の勅使立ち合いのもと宝庫の封が解かれ、約2ヵ月の間に9000件の宝物を点検する、これが1300年にわたり宝物を最良の状態で守り伝えてきた証しです。この開封期間中の約2週間に開催されるのが「正倉院展」です。

≪再現 勅封の扉≫(ちょくふうのとびら)

≪再現 勅封の扉≫(ちょくふうのとびら)
ふたつ目の魅力:
天下の名香「蘭奢待」(らんじゃたい)の香り初公開です。聖武天皇が名付た「蘭奢待」には、「東」、「大」、「寺」の文字が隠されています。
宝物名は「黄熟香」(おうじゅくこう)、長さ156cm、重さ11.6kg、東南アジアに分布しているジンチョウゲ科の木に樹脂や精油が沈着してできた香木で、いわゆる「沈香」(じんこう)。 織田信長が欲してやまなかった蘭奢待、足利義政、明治天皇が切り取った跡に付箋が貼られています。

≪レプリカ 蘭奢待≫
会場では、ガラスボールの中に閉じ込めた再現した香りが展示されていて、来場者は謎に包まれてきた「蘭奢待」の香りを実際に嗅ぐことができます。このコーナーはぜひ体験してください。
STAGE 04 新たな鼓動
現代アーティストが、正倉院の宝物、音色などからインスピレーションを受けて創造した作品が展示されています。
篠原ともえさんは、宝物「漆胡瓶」(しっこへい)のフォルムや雌雄つがいで描かれている動物や昆虫、植物などの文様に触発されて、1300年前の職人たちと対話するような感覚の中で昇華させたドレスを出品しています。

篠原ともえ ≪LACQUERED EWER SHOSOIN DRESS≫
本展が、聖武天皇とかかわりの深い難波宮跡に建つ大阪歴史博物館にて開催されることは、時空を越えて正倉院1300年の奇跡に思いを馳せるに相応しい場所のように感じます。 視覚だけではなく聴覚も嗅覚も楽しませてくれる「正倉院 THE SHOW」へ、ぜひお出かけください。
[取材・撮影・文:hacoiri / 2025年6月17日]