まずは、水の中にぽっかり浮かぶ岩のような鼻。やっ!顔が見えます。あっ!次は背中。とうとう姿
を現しました。わぁ、カバって大きいなぁ。・・・・・・そんな場面でカバを登場させた絵本『かばくん』
(文:岸田衿子/1962 年)は、出版から約45 年たった今も幼稚園や保育所でひっぱりだこの絵本で
す。
その『かばくん』の絵本の原画が美術館にやってきます。この絵を描いた画家、中谷千代子は、東京美術学校(現・東京藝術大学)卒業後、子どものための絵画教室を開きます。そこで、彼女は子どもたちの豊かな感性に驚くとともに、その子どもたちにとって、最も身近な絵が絵本であることに気がつきました。子どもたちに、すばらしい絵本をもっとみせたい- そういう想いをこめながら、彼女は、親友でもあった詩人、岸田衿子とともに絵本作りを始めます。
その最初の作品が『ジオジオのかんむり』(1960 年)で、2年後が『かばくん』でした。以後、中谷は
『まいごのちろ』(1965 年)、『みんなのこもりうた』(作:アルベルチ訳:石井桃子/1966 年)、『スガンさんのやぎ』(作:ドーテー文:岸田衿子/1966 年)、『たろうといるか』(1969 年)、『いちごばたけのちいさなおばあさん』(文:わたりむつこ/1973 年)、『かめさんのさんぽ』(1978 年)といった名作を次々に生み出していきます。
これらの絵本は、確かなデッサン力に加え、色彩豊かで静かな雰囲気をたたえた画風で、日本ばかりでなく、海外でも高い評価を得ました。
本展は、中谷千代子が一人の画家としてひたむきに子どもの感性とむきあった17 冊の代表的な絵本の原画184 点とデッサンなどの資料を通して、世代を超えた人々に愛される、その絵本の魅力を探ります。